【報告書】作成者:ましろ

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2009-11-15 (Sun) 22:18

2004.10.23 【 曖昧なさよなら 】

並んで歩いていたのは初夏の頃。
彼の部屋で過ごした午後はとても暑くて、
肌寒さを感じるほどにエアコンが効いていた。

「曖昧なさよなら」だけが、今も心に残っている。


「そろそろ引っ越しするから。」

予感していた別れだった。
次の言葉が続かない彼に、私から最後の優しさを込めて告げる。

「そう、元気でね。」

お互いが違う方向を目指していた事に気付いてはいたけれど、
修正する事も出来ないままに迎えてしまった冬のある日。
射し込む夕陽に照らされて部屋はオレンジ色に染まっている。
暖かいその色とは対照的に、室内は冷たく静かだった。

「毎日過ごしたこの場所で、話しておきたかったんだ。」

いずれ去ってしまうこの小さな空間に、
彼は全てを封印してしまいたかったのかもしれない。

部屋の荷物が消えてゆくのを見届ける事もないまま、彼を見送る最初で最後の日。
駅の階段で振り返ったその姿を、しっかりと心に焼き付ける。

そして二人で過ごした季節を丁寧に想い出しながら、
私は静かにその場を離れた。



夏を迎えてしばらく経ったある日、彼からのコールが響く。

「独りには慣れてるから。」聞き慣れた声が近況を伝えた。
その言葉と共に記憶の底から、少し寂しげな彼の横顔が鮮やかに甦る。
何も言わずにただ、優しく抱きしめてあげたかった。

その後何度か着信履歴が残っていたけれど、私からかけ直す事はしなかった。
新しい時間を重ねたとしても以前の二人に戻れない。

『それだけは、解っていたから』
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最終更新日 : -0001-11-30