帰宅を急ぐ人々とすれ違いながら
ゆっくりとした歩調で二人は歩いていた。
太陽はその姿を隠そうと、足早に西の空を蒼く染め上げてゆく。
頬を撫でる風が少し冷たい。
新しい季節の到来は、静かに告げられていた。
不意に「夏の記憶」が甦る。
真新しい煉瓦色のジャケットと彼の大きな手には、優しい温もり。
繋いだ指先に想いを込めてみる。
逆光のせいでよく見えないけれど、きっと彼は笑っている。
『私の大好きな笑顔で』
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ゆっくりとした歩調で二人は歩いていた。
太陽はその姿を隠そうと、足早に西の空を蒼く染め上げてゆく。
頬を撫でる風が少し冷たい。
新しい季節の到来は、静かに告げられていた。
不意に「夏の記憶」が甦る。
「頻繁には連絡出来ないかもしれないけど、出来る限り時間は作るから。」
数日間の地方出張を告げられた直後の一言。
特別な約束もない私達だったのに、
そう言ってくれた彼の心遣いが何よりも嬉しかった。
「うん。でも、無理はしないでね。大人しく待ってますからご安心を。」
悪戯っぽく笑いながら返事をしてみる。
彼の存在はいつの間にか「特別な人」になっていた。
逢えない日々を想像するだけで、冷静さを失ってしまう程に。
「・・・安心出来ないから連絡するんだって。」
私が見せたわずかな動揺に、彼は気付いていたのかもしれない。
次の言葉を失った瞬間、二人を取り巻く空気がその色を変えた。
真新しい煉瓦色のジャケットと彼の大きな手には、優しい温もり。
繋いだ指先に想いを込めてみる。
逆光のせいでよく見えないけれど、きっと彼は笑っている。
『私の大好きな笑顔で』
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最終更新日 : -0001-11-30