【報告書】作成者:ましろ

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2009-11-08 (Sun) 09:18

2004.10.10 【 繋いだ指先 】

帰宅を急ぐ人々とすれ違いながら
ゆっくりとした歩調で二人は歩いていた。

太陽はその姿を隠そうと、足早に西の空を蒼く染め上げてゆく。
頬を撫でる風が少し冷たい。
新しい季節の到来は、静かに告げられていた。

不意に「夏の記憶」が甦る。


「頻繁には連絡出来ないかもしれないけど、出来る限り時間は作るから。」

数日間の地方出張を告げられた直後の一言。
特別な約束もない私達だったのに、
そう言ってくれた彼の心遣いが何よりも嬉しかった。

「うん。でも、無理はしないでね。大人しく待ってますからご安心を。」

悪戯っぽく笑いながら返事をしてみる。
彼の存在はいつの間にか「特別な人」になっていた。
逢えない日々を想像するだけで、冷静さを失ってしまう程に。

「・・・安心出来ないから連絡するんだって。」

私が見せたわずかな動揺に、彼は気付いていたのかもしれない。
次の言葉を失った瞬間、二人を取り巻く空気がその色を変えた。



真新しい煉瓦色のジャケットと彼の大きな手には、優しい温もり。
繋いだ指先に想いを込めてみる。

逆光のせいでよく見えないけれど、きっと彼は笑っている。

『私の大好きな笑顔で』
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最終更新日 : -0001-11-30