【報告書】作成者:ましろ

Top Page › 3D小説「bell」 【2部/記録】 › 『ファーブルの視点』
2014-12-23 (Tue) 11:51

『ファーブルの視点』

ファーブルの視点1 
※ファーブルの視点:秋葉原(東京)「書泉ブックタワー」にて発見。

 ほんの一瞬、気がつかなければよかった、
と感じたことは事実です。もちろん私にとっ
て彼女は敵ではありません。良き友でありた
いと、常日頃から考えております。あちらが
どう思っているのかは知りませんが。
 正直なところ彼女からは稀に敵意のような
ものを感じます。であればやはり人として、
顔をあわせることに多少の抵抗があったとし
てもそれは仕方がないことだと思うのです。
 秋葉原駅を出ようとしたとき、通路の向こ

うから歩いて来るのは、見目麗しい--と表
現すること自体にはなんの抵抗もない--ひ
とりの女性でした。彼女は我ら場聖夜協会で
は、ノイマンと呼ばれております。
 私はにっこりとほほ笑んで、彼女に声をか
けました。
「これはこれはノイマン、奇遇ですね。おは
ようございます」
 彼女はあからさまに顔をしかめて、さも
嫌々といった様子で、小さな会釈を返してき

ました。
 これはいけません。澄み切った朝の空気に
は似つかわしくない。素気のない態度だと私
には感じられました。
 通り過ぎていこうとする彼女に、私は声を
かけました。
「どこにいかれるのですか?」
 彼女はさも嫌々といった様子で答えます。
 「ドン・キホーテに」
「ほう。ドン・キホーテ?」

「ディスカウントストアの」
「それは存じ上げておりますよ。こんな時間
に一体どうして?」
 彼女は小さなため息をついた。
「紙ふぶきが欲しいんですよ。あと、あれば
ドミノ」
「貴女には似つかわしくないものですね」
「どうしようもない事情があって」
「その事情というのを、よろしければ教えて
いただけますか?」

 彼女がしつこいわねと呟いたような気がし
ましたが、おそらくは空耳でしょう。
「センセイから依頼があった、極秘映像に必
要なものです」
「ああ--」
 なるほど、なるほど。
「一体それは、どのような映像なのでしょうか?」
「極秘だと言っているでしょう」
「ええ、もちろんですとも。とはいえ--」

私はつい余裕の笑みを浮かべてしまいました。
「その映像は私が受け取ることになってお
ります。懇親会を欠席される貴女に代わって
ですよ。私にまで秘密ということはないで
しょう」
「ええ。指示にあった通り、二四日中にはお
送りいたしますよ。ま、子供だましのつまら
ないものです」
「センセイからの指示をつまらないと言っ

てしまうのは感心しませんね」
「センセイの指示に従わないのも。極秘は極
秘です」
 では、と告げて彼女は歩き出してしまい
ました。
 それにしても--紙吹雪? いったい、ど
んな動画を作るつもりなのでしょう。
 センセイが主催される懇親会にふさわしい
ものになっているとよいのですが。正直なと
ころ、不安は残ります。

 ※

 さて目的の書店に辿り着いた私は、活気の
ある店内を進みます。ここになんらかの、セ
ンセイへとつながる手がかりがある--そう
私は確信しておりました。
 ですから、一階、二階……と調査が空振り
に終わっても、不安はありませんでした。そ
れはセンセイと会話を交わしているような安

らかな時間でした。
 ついにそれが見つかったのは、八階に到達
したときでした。その階の、おそらく今は使
われていないレジカウンターに、まるで私に
みつけられるのを待ちわびていたように、一
枚のメモ用紙が乗っておりました。
 そこにはどこか温かみのある文字で、こう記
載されておりました。

 キーのひとつは太陽が照らす文字にある。

 双子の差が重要だ。

 もちろんその真意はわかりません。
 ですがなんとも優美な謎の香りがするセン
テンスではありませんか。
 これは、センセイが私のために残したもの
に違いない!
 そう確信して私は、そのメモ用紙を丁寧に
手帳に挟み、持ち帰ることにいたしました。

キーのひとつは太陽が照らす文字にある。
双子の差が重要だ。


-----------------------------------------------------------------------------

ファーブルの視点1 ファーブルの視点2 ファーブルの視点3 ファーブルの視点4 ファーブルの視点5
ファーブルの視点6 ファーブルの視点7 ファーブルの視点8 ファーブルの視点9 書泉ブックタワー
-------------------------------------------------------------------------------------------
スポンサーサイト



最終更新日 : 2014-12-31

Comment







非公開コメント