【報告書】作成者:ましろ

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2014-12-21 (Sun) 23:59

12月21日(日)

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■山本美優/12月21日/15時20分

 進学先に尾道を選んだのは、いかにも私らしいなと思う。
 白石くんのように愛媛に残るわけでも、越智くんのように東京に出るでもない。とりあえず瀬戸内海を超えてすぐの、なんとなく天気予報で同じ画面に収まる範囲をちょろちょろしている、中途半端な感じ。
 とはいえこの街は静かだし魚介類も美味しいから、大学の4年間を過ごす場所としては満足している。一方でその先――卒業後に、さらに愛媛から離れるのか、それともくるりと舞い戻るのかは難しい選択だった。
 さすがにぼちぼちと卒業後の進路について考えながら――おそろしいことに、私が学生でいられるのはもうあと1年少々なのだ――ひとりきり瀬戸内海に面した人の少ない通りを歩いていた。
 瀬戸内海のような小さな海でも、やはり遮るものがないからだろう、冷たい風が吹きつけてくる。私は格安のセレクトショップで出会ったミリタリーコートとスマホタッチに対応した毛糸のグローブと裏起毛タイツに身を守られて、しまなみ海道を睨みながらうつむきがちに歩く。閑散とした街でもどこかからジングルベルがきこえてくる。社会の深いところに刻まれた本能みたいに。私たちは初詣と年賀状とジングルベルが義務づけられた民族だ。
 クリスマスにあまりいい思い出のない私は、ジングルベルから逃げ出すために釜飯が美味しい定食屋さんに入った。昼食がまだでお腹がすいていたのだ。昼と夜をまとめて一食にするという、カロリー計算上は理に適っているはずのダイエットプランを実行中なのだけど、今のところ効果は現れていない。
 店内に流れていたのは、妙に荘厳なクラシックだった。釜飯が美味しい定食屋さんには合わない気がするけれど、クリスマスミュージックではないことに満足して煮魚の定食を注文する。それから、スマートフォンが震えたから、メールを確認した。実家の母からだ。
 ――いつ帰るの?
 大学の期末試験は明日でおしまいだ。その数日後には帰るよと返信した。細かなスケジュールは決めていない。高速バスで2時間程度の距離だから、帰ろうと思えば今すぐにでも帰れる。なんとなくクリスマスが終わるまではこちらにいて、除夜の鐘までには実家に戻ろうか、くらいの意識。
 それからしばらく母と、だらだらとメールのやりとりをして過ごした。
 やがて煮魚定食が運ばれてきて、スピーカーから流れる音楽が清しこの夜に変わった。
 結局、どこにいようとクリスマスからは逃れられないのだ。神社や寺でさえクリスマスのオーナメントで飾りつけられてもおかしくない。
 私は小さなため息をつく。
 そのとき、ふたつ離れた席から声をかけられた。
「ちょっといいかな?」
 振り返ると、赤いジャケットを着た、背の高い男がいた。

       ※

 この辺りの人ではなさそうだぞ、と一目で感じた。
 立ち振る舞いが都会っぽい。2分歩けばおしゃれなバーがあり、5分歩けば数多くのワインが取り揃った高級レストランがある生活が当たり前だと思っているタイプの男にみえた。そもそも赤いジャケットを平気で着こなす男なんてこの辺りにはいない。
 男は首を傾げる。
「オコゼのから揚げ、好き?」
 なにを言っているんだこの人は。たまにいる観光客だろうか。
「けっこう美味しいですよ。おすすめです」
 と一応答えた。
 尾道は有名な映画の舞台になったとかで、たまに観光客がやってくる。私の出身地も、道後温泉のおかげでどうにか観光地にひっかかっていたから、観光客を無下にはしたくない。
「そう。ありがとう。――ああ、君。このメニューなんだけど、どれくらいのボリュームがあるんだろう?」
 男は店員を呼び止めて、オコゼのから揚げについての説明を聞き始めた。
 私は煮魚定食に箸をつけながら、似合わない男と店員の会話を聞くとはなしに聞いていた。清しこの夜には合わない会話だった。
「え、そんなに大きいの? 半身だけの注文ってできない? ――そうか。じゃあそっちのブラックボードのセットと、このから揚げを。食べきれなかったら、持って帰ってもいいの? でもあつあつの方が美味しいよねぇ」
 彼はふいに、顔をこちらに向ける。
「君、から揚げ半分食べない?」
「え?」
「名物っていわれると、ちょっと味見をしたくなる性質でね。でも一匹まるごとだっていうから。ほら、旅先だといろいろ食べたくなるじゃない」
 はあ、と私は間の抜けた声で頷く。
 それから少し考えて、尋ねた。
「ナンパですか?」
「違うよ。尾道には悪いけどね、女の子と遊びたかったら別の場所にいく」
「私、あんまりお金持ってないです」
 オコゼはわりと高い。
「もちろん奢るよ。実は、仕事でここにきていてね。経費で落ちる」
「それはそれで抵抗あります」
「ならオレが自腹で奢ろう」
 そちらの席に行っても? と男は言った。
 困った。
 私はどちらかといえば人見知りな方だけど、その自覚があるせいで、妙に強がってしまうところがある。それは欠点だとわかっていたけれど、つい強がって笑顔で「いいですよ」と答えてしまう。自分自身に対して意地を張るのは欠点だ。
「ありがとう。――ああ、君。料理はそちらのテーブルに頼むよ」
 男が席を立ち、向かいの席に移動する。
 彼は横向きに席に座り、足を組み、私に向かって名刺を差し出した。
「実は、ある男を捜していてね。君から話を聞きたかったんだよ、山本さん」
 その名刺には、「旅先案内人 八千代雄吾」と書かれていた。


■山本美優/12月21日/15時30分

 山本さん、と赤いジャケットの男は言った。
「わざわざ解説が必要な肩書きなんてものはバカバカしいと、オレ自身思うけれどね。旅先案内人ってのは、まあ便利屋みたいなものだと考えてもらえればいい。何でも屋ってほどなんでもはしない。でも一言では言い表せないくらいに、いろいろなことをする仕事だ。今回はある女性に頼まれて、ひとりの男を捜している。――って、これは、さっきも言ったかな?」
 私はその男――八千代さんの話を、ほとんど聞いていなかった。
 彼が私の名前を知っていたことに、ただただ驚いていた。
「食事、続けて。せっかくの料理が冷めてしまう」
 そう勧められて、本当に箸を握ろうとして、だがどうにか踏みとどまる。
 ようやく尋ねた。
「どうして、私の名前を知っているんですか?」
「依頼人から聞いたんだ。写真もみせてもらった。明日、大学の方に行ってみるつもりだったんだ。今日ここで会えたのは偶然だよ。オレも目を疑った」
「依頼人って、だれですか?」
「ごめんね、それは言っちゃいけないことになっている。とはいえ君を捜していたのは、本当に話を聞きたかっただけだよ。住所も電話番号も知らない。わかっているのは大学と、あとは愛媛出身だってことくらいだ。それほど警戒する必要はない」
 警戒がいらないといわれても、そんなもの、気になるに決まっている。
「どうして、私に?」
 とどうにか尋ねる。
「捜している男が最後に会った人物が、どうやら君らしくてね。とはいえ、もうずいぶん前のことだ。ええと――」
 八千代さんは手帳をめくって、言った。
「今から、ちょうど10年前の、春。思い当たることは?」
「あります」
 もちろん、ある。
 10年前の春に消えた男の子。――彼のことは、クリスマスシーズンになるたびに思い出す。いや、思い出すという表現は正確ではないかもしれない。そもそも私は、彼のことを忘れたことがない。 
「久瀬くんを捜しているんですか?」
 八千代さんは少しだけ眉をひそめる。
「久瀬? ――いや、たぶん違う」
「たぶん?」
「オレも本名は知らないんだ。でも、君が『くん』とつけて呼ぶ歳じゃない。きっと君のお父さんよりも年上だよ」
 違うのか。
 確信していただけに、気が抜けた。
「じゃあわからないです」
 ほかにいなくなった人なんていない。
「待って。関係あるかもしれない。久瀬くんっていうのは?」
「小学校のころの同級生です。一緒に学校に通っていたのは半年くらいですけど」
 彼は小学3年生のクリスマスでひどい事故に遭い、そのまま長い間、入院していた。
 そして小学4年生が終わるころ――10年と9か月前の3月に消えてしまった。
 そう説明すると、八千代さんはせわしなく手帳をめくって、言った。
「もしかして君は、その少年のお見舞いにいったのか?」
「ええ、はい。何度か」
 とはいえ彼は、関東の病院に入院していたから、そう頻繁には訪ねられなかった。
「最後に会ったのは?」
「彼がいなくなる直前です」
 仕事の都合で、父がたまに東京に行くことがあって、私は無理を言ってそれについていった。
 でも、あの3月、私が会ったすぐあとに、彼は消えてしまった。
「消えたってのは、どういうことだい?」
「そのままです」
 急にその病院からいなくなって。どこに行ったのかもわからなくて。
 小学生の私には、彼の行き先を調べる方法も思いつかなかった。
 大人になったら調べようと思っていて――なのに、どうしてだろう――今まで忘れていた。
 八千代さんは頷く。
「君は、その少年の病室で誰かに会わなかったかい?」
「誰か?」
「そう。たとえばセンセイと呼ばれる、初老の男性だ」
 センセイ? センセイ――
 そんな風に呼ばれていたのかは、知らない。
 でも。
「確かに、男の人には会いました」
 お父さんよりも年上の、お祖父ちゃんくらいの歳にもみえる男性。
「オレが捜しているのは、その人だよ。その人もね、君がいう、久瀬って少年とほとんど同じ時期に姿を消している」
 どういうことだ?
 もしかして――
「その、センセイという人が、久瀬くんを連れ去ったんですか?」
「わからない。あの人のことは、本当にわからないんだ。どんな話をしたの?」
「覚えていません。ほとんど意味のあることは話さなかったような気がします」
「じゃあ、センセイからなにか受け取らなかったかな?」
 どうだろう? なにか? なにを――
 そうだ。
「携帯電話」
「携帯?」
「携帯電話か、なにかそういうものを、渡された気がします」
「それだ」
 八千代さんが身を乗り出す。
「その電話、どこにある?」
「たぶん実家に。捨てた覚えはないから、どこかにしまい込んでいるのかも……」
「実家っていうのは愛媛の?」
「ええ、はい」
「近いな。今すぐ確認したい」
 八千代さんがそう言ったタイミングで、ちょうど店員さんが料理を運んでくる。
 彼は言った。
「食事のあとで、すぐに移動しよう」
「いや、あの、私は明日まで学校です」
「今夜愛媛に戻って、明日の朝戻ってくればいい。学校は何時から?」
 答えたくない。
 なんなんだ、一体。
「久瀬って子のことも、まとめてわかるかもしれない。センセイはその少年の病室を訪ねたんだ。そしてその少し後に、姿を消した」
 久瀬くんに関係しているのだろうか? あの携帯電話が?
「もうすぐ実家に帰る予定です。数日、待ってもらえませんか?」
 でも八千代さんは首を振る。
「実はね、制限時間は24日までだと聞いているんだ」
「制限時間、ですか?」
「センセイをみつけるまでの制限時間。オレもよくは知らない。たとえば、24日までに足取りを終えなければ、センセイが海外に行ってしまう、という風な事情があるのかもしれない。なんにせよオレには時間がない。君も久瀬って少年の行方を知りたいのなら、急いだ方がいい」
 24日? イヴだ。
 いや、そんなことはどうでもよくって、あと3日しかない。
「どうする? 車なら出せる」
 と八千代さんは言った。
 私は首を振る。
「いえ」
 知らない男性の車に乗るつもりはない。
「まだ高速バスの便に間に合うと思います」
 そう答えて私は、冷めかけた煮魚定食に箸をつけた。


■山本美優/12月21日/18時30分

 窓の外は暗い。
 ガラスに映り込んだ自分越しに、寒々とした瀬戸内海を眺めていた。
 バスはしまなみ海道を超えて愛媛を目指している。
 どうしてこんなことをしているのだろう、という思いはもちろんあった。
 こんなの馬鹿げている。きっと意味なんてない。往復ぶんの交通費を無駄にするだけだ。
 わかっていたのに、ついバス停に向かってしまった。
 目の前のバスに乗り込まないわけにはいかなかった。
 私が久瀬くんのお見舞いに行ったのは、小学4年生の、そろそろ3学期が終わるころだった。

       ※

 春から夏にかけて回復しつつあった久瀬くんは、秋ごろに一度病院を抜け出したとかで、また体調が悪化していた。きっとなにか理由があったのだろう。彼は理由さえあれば、平気でどんな無茶でもする男の子だった。
 3月に私が病室を訪れたとき、彼は眠っていた。
 私は彼の隣に座っていた。目を覚ましたとき、どう声をかけようかと悩んでいた。
 やがて扉が開いて、ひとりの、小学生からみればお爺ちゃんにみえる男の人が入ってきた。
 その人物がおそらく、八千代さんがいうところの「センセイ」だったのだろう。
 私はその人が、久瀬くんのお祖父ちゃんか誰かだと思っていた。だからとくに素性や名前などは尋ねなかったと思う。
 短い会話をした記憶はある。
 でも詳しいことは覚えていない。
「よく眠っているね」
「そうですね」
「彼はいい子だ。たぶん、誰よりも」
「私もそう思います」
 そんな話をしたような気がする。でも詳細は違っているかもしれない。
 なんにせよその老人は、10分ほどで部屋を出てしまった。
 ――そうだ。
「私は遠いところにいかなければならない」
 と、彼は言っていた。
「友達に誘われたんだ。いつ帰ってこられるかもわからない。ばたばたと準備をしていてね。最後にこの子と話をしたかったんだけど、それは叶わないみたいだ」
 たしか、そういう風なことを言って。
 私に携帯電話を差し出した。
 たぶん、白いスマートフォン。
 そうだったと思う。
「しばらくこれを預かっておいてくれないか?」
 どうしてですか? と私は尋ねた。
 スマートフォンが高価なものだという知識はあったから、警戒したんだと思う。
「いつかこの子と連絡が取れるかもしれないからだよ」
「久瀬くんと?」
「彼も同じものを手に入れるかもしれない。そのとき、これを君に渡していることに意味が出てくるかもしれない。まだわからないけれどね」
「くれるんですか?」
「あげるわけじゃない。それは私のものだからね。あくまで一時的に、預かって欲しい」
 スマートフォンが私のものになるわけではない、ということに、むしろ安心した。
 高価なものを知らない大人からプレゼントされるわけにはいかない。
「次に会ったとき、私に返してくれればいい」
 そう言って、笑って、彼は病室を出ていってしまった。

       ※

 どうしてそんなことを今まで忘れていたのだろう?
 根拠はわからないけれど、そのスマートフォンに久瀬くんからの連絡がある可能性を示唆されたのだから、もっと頻繁に確認した思い出があってもよかった。その直後に久瀬くんは姿を消してしまうのだから、学校にこっそりと持ち込んでいても、抱きしめて眠っていても、不思議ではなかった。
 なのに、スマートフォンをどこにしまい込んでしまったのか、もう思い出せない。きちんとうちにあるだろうか? 不安だ。
 ――センセイという人は、どうして私にスマートフォンを預けていったのだろう?
 彼がそれを取りにきた記憶はない。いったい、どこに行ってしまったのだろう?
 わからないことだらけだ。
 でも、考えれば考えるほど、あのスマートフォンのことが気になった。
 ――もしかしたら、スマートフォンに久瀬くんからのメールが届いていたのかもしれない。
 私がそれを見逃していたから、彼は10年間も行方しれずなのかもしれない。
 根拠なんてない、でも。
 ――どうして私は、あのスマートフォンのことを忘れていたのだろう?
 そのことに、漠然とした不安があった。


■山本美優/12月21日/20時55分

 母に車で、駅まで迎えに来てもらった。
 急に帰ってきた私に、母はとくべつ驚きもしなかった。
「いつまでいられるの?」
 と呑気に尋ねられる。
「明日の朝いちで帰る。必須のテストまだひとつ残ってるよ」
「そうなの? 年末は?」
「また戻ってくるよ」
「じゃあ今日はなんの用なのよ」
「忘れ物があったの。いいでしょ、別に」
「そりゃいいけど。晩御飯は?」
「食べてきた」
「そ。あ、みかんあるよ。持ってく?」
「送ってくれたのまだ残ってる」
「はやく食べないとかびるよ」
「だいぶ減ったよ。友達に配ったし」
 と、そんなやりとりをしながら、懐かしい道を走り実家へと戻る。
 父に「ただいま」と声をかけて、自分の部屋に駆け込んだ。高校まで暮らした部屋だけど、ベッドも学習机も小学生のころのままで、ずいぶん子供っぽくみえた。
 ――スマートフォン。
 そんなものどこにあるのたろう?
 押し入れの中の段ボールならやっかいだ。一晩中部屋の中をひっくり返すことになるかもしれない。
 こんなところにあるはずない、と思いながら、まずは学習机の引き出しを開けた。
 いきなり、1段目だった。
 ――靴下?
 なぜか男物の赤い靴下が片方だけ入っている。なぜだ。父のものだろうか?
 私は父に確認しようと、その靴下を引っ張りだす。
 が、意外に重い。中になにか入っているようだ。四角く、平たい、それはまるで――
 まさか、と思った。
 私はその靴下に手を突っ込んだ。
 間違いない。中身は、スマートフォンだ。丁寧に充電器まで入っている。
 ――どうして?
 靴下の中に。だれの靴下だ?
「美優、お風呂入るよね?」
 と母の声が聞こえた。
「入る」
 と叫び返して、私は意識を引き戻した。
 重要なのはスマートフォンだ。壊れていないだろうか?
 充電器を繋ぎ、電源ボタンを押し込むと、ぶるるとそれは震えた。
 ――いける。
 ホームボタンを押して、ロックを解除した。パスワードはかかっていない。
 なんの変哲もないトップ画面が映る。アプリの数は、極端に少ない。初期設定のままだろうか。
 私はメールのアイコンに触れる。だが、メールフォルダは空のようだった。
 気が抜ける。
 ――無意味だった?
 へんに期待していたぶん、落胆が大きい。
 まったく。一体、なんなのだ、このスマートフォンは。
 ため息をついた、そのときだった。
 手の中から、ジングルベルが流れ始めた。 

 今、目の前で。
 10年前に受け取ったスマートフォンに、メールが届いた。


■山本美優/12月21日/21時

 戸惑う。
 これは現実の出来事なのか、としばらく疑っていた。
 そもそもメールが届いたタイミングがおかしかった。まるで私が見張られているようだった。そんな馬鹿な。偶然ではないにしろ、スマートフォンの電源を入れたらメールが届くように設定されていたなどの、わかりやすい仕掛けがあるのだろう。きっと。
 おそるおそる、新着メールを開く。
 件名は、『クリスマス懇親会のお知らせ』。
 差出人は、「センセイ」の名前で登録されていた。

       ※

 山本美優さん、お久しぶりです。
 急な話で申し訳ありません。
 12月24日に『クリスマス懇親会』を行う予定です。
 よろしければ、いらしていただけませんでしょうか?
 あるいは姿を消した彼についても、お話できるかもしれません。
 もし参加の意志がおありでしたら、このメールに返信していただけましたら幸いです。

 貴女に安らかなクリスマスが訪れることを祈って。

 センセイ

――To be continued


★★★雪からのメール
メリーから 

 12月21日、solたちの手によって、公式ページは取
り戻された。
 協力してくれた方々、ありがとう。
 だが物語にはまだいくつかの困難があることが予
想される。
 これまで力を貸してくれた人たちも、
 新たにこの物語の存在を知ったひとたちも、
 共に最良の結末を目指してくれると嬉しい。


★★★メリーより「調査協力のお礼」
調査協力のお礼 

 「いい子」に関する調査にご協力いただきま
して、誠にありがとうございます。
 おかげさまで、とても貴重な結果を得られ
ました。
 もしかしたら今後も、お力添えが必要とな
る機会があるかもしれません。
 そのさいには、どうかよろしくお願いいた
します。

 それでは、よいクリスマスを。

メリー


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最終更新日 : 2015-07-30

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