【報告書】作成者:ましろ

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2014-08-21 (Thu) 23:59

8月21日(木)

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――水曜日のクリスマスには100の謎がある。

13番目の謎は、彼女はいつ生まれたのか、だ。

★久瀬へ:ちえりに言って、みさきとちえりの2人が写っている写真を入手して欲しい ※8/20


55番目の謎は、彼はいつ倒れるのか、だ。

★久瀬へ:君は小学生のときに入院していたようだけれど、覚えていない? ※8/20
★久瀬へ:タイムカプセルはアカテという軍手にスーツの男が、
 久瀬くんが入院してるときに、久瀬くんの愛媛時代の旧友に埋めさせたとのことですよ。 ※8/20


73番目の謎は、バスに乗ることを望むのは誰なのか、だ。

★久瀬へ:バスに運転手はいたか ※8/20
★久瀬へ:バスの運転手って誰かわかる?※8/20


81番目の謎は、その情報は誰に対して秘匿されるのか、だ。

★久瀬へ:最後にパーティーに出席した年のクリスマス、きみはサンタ、あるいはそれ以外の誰かから
 クリスマスプレゼントをもらってる?イエスなら、誰に何をもらったか教えて欲しい。ついでにその翌年の分も ※8/20


95番目の謎は、なぜその感情は設定されないのか、だ。

★久瀬へ:恋をしたことがあるか? ※8/20


【再】54番目の謎は、英雄の証が証明するものはなんだ、だ。

★久瀬へ:ヒーローバッヂの状態が何故重要なのか少年ロケットに聞いて ※8/20


【再】24番目の謎は、なぜ彼は自身の状況を正確には認識できないのか、だ。

★久瀬へ:恐らく君はプレゼントによる記憶改竄を受けている、
 もしかしたら君はプレゼントを保持しているのかもしれない。
 バッヂの状態について知るとそれが破壊される可能性がある。 ※8/20


【再】72番目の謎は、なぜ彼はそこにいるのか、だ。

★久瀬へ:ちょっと危ないかもしれないけど、着ぐるみの中には誰もいないの?傷から覗けない?
 もしなんだったら手を突っ込んでみて ※8/20
★久瀬へ:そのきぐるみ、脱がせられるんなら脱がしてやって ※8/20


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■久瀬太一/8月21日/21時30分

 明かりをつけていないマンションの一室で、オレは5回、電話をかけた。
 まずは八千代雄吾に。
 だけど、彼は出なかった。

       ※

 次にオレは、父親に電話をかける。
 しつこくコールしていると、やがて父の、どこか間が抜けた声がきこえた。
「どうした?」
「訊きたいことがあるんだ」
 ソルから尋ねるよう言われていたことを、オレは順に尋ねる。
 まずはみさきの祖父について。彼は謎が好きだったのか? それと、彼がいなくなった正確な時期について。
「頭を使う問題は、全般的に好きだったよ」
 と父は答える。
「よく人に問題を出していた。そういうのを真ん中において、ああだこうだと言いながら酒を飲むのが好きな人だった。いなくなったのは、あまりはっきりとは知らない。10年前の、春ごろだったと思う」
 続けてオレは質問する。
 聖夜協会に入る方法について。
 父は答える。
「さあな。メンバーの誰かと知り合って、入れてくれっていえばいいんじゃないか? 特別な資格がいるわけでもないよ、あんなもん」
 やはり父が知っている時代の聖夜協会と、今の聖夜協会はずいぶん違うのだろう。
 最後に尋ねる。
「小さなころ、あんたにキーホルダーを貰ったんだが、覚えているか?」
「どんなキーホルダーだよ?」
「赤い帽子をかぶった、目つきの悪い少年の」
 少年ロケット。後ろにそう書かれていたような気がする。
「いや。よく覚えてないな」
 と父は言う。
「たぶん、どっかから貰ってきたもんだろう。それがどうかしたのか?」
「なんか重要かもしれないんだよ」
 もし思い出したら教えてくれ、と告げて、オレは電話を切った。

       ※

 3件目は宮野さんだ。
「ちょっと貴方なにしてたのよ、こっちは何度も電話してるんだから――」
 とまくしたてる彼女の言葉を適当に聞き流して、オレは尋ねる。
「先月、一緒に水曜日の噂について調査しましたよね?」
 オレのバイト初日だ。まだ数度しか、彼女の元では働いていないが。
「それがどうかしたの?」
「あのときの調査について、詳しく教えて欲しいんです。どこまでが雪って人の指示で、どこからが宮野さんの独断なんですか?」
「もう覚えてないわよ、そんなもん」
 そんなもんって。
「まあでも、雪さんからの指示はざっくりしていたと思うから、だいたいは私が考えて調べたんじゃない?」
「あのバスの停留所もですか?」
 ああ、と宮野さんが呟く。
「停留所と、それからレストランは雪さんから貰った情報にはっきりあった気がするわね」
 なるほど。
 実際に奇妙なバスがやってきた停留所と、スイマと書かれたアタッシェケースがみつかったレストラン、か。
 オレは続けて尋ねる。
「今は、なにか頼まれてるんですか?」
 宮野さんは、少し困ったような唸り声を出した。
「最近、連絡が取れないのよね」
「最近って?」
「このあいだ、貴方と八千代さんに会って、雪さんとの電話を繋いだのが最後」
 なるほど。
「でも、スイマの調査は続けてるんですよね?」
「そりゃね。締め切り、もうすぐだし」
 そうか。ベートーヴェンは、おそらく月刊誌だろう。
 締め切りに追われる宮野さんと、水曜日の噂を調べてから、もうそろそろひと月経つ。
「ところで、ミュージックプレイヤーはまだ手元にありますか?」
 とオレは尋ねる。
「あるわよ。本音を言うと、早く八千代さんに返してあげだいんだけど」
「オレが返しておきましょうか?」
「それはダメ」
「どうして?」
「なんかね、私が持ってる方が都合がいいらしいのよ、雪さん曰く」
 どういうことだ。
 雪という人物の思惑が、まったくみえない。
「中身はまだ教えてもらえないんですか?」
 とオレは尋ねた。
「八千代さんに聞けば?」
 と言って、宮野さんは電話を切った。

       ※

 次は、ちえりだ。
 去年のクリスマス、誰と過ごしたのか尋ねるよう言われている。
 ――なんだそれ。
 と思うが、ソルと約束した以上、尋ねないわけにもいかない。
 なんとなく気が進まないまま彼女に電話をかけ、しばらくなんでもない会話と、それから少しだけみさきの話をした。
 いくつか、あのクリスマスパーティでの思い出話をして、それから尋ねる。
「みさきは去年のクリスマス、どうしてたんだ?」
 去年? と彼女は、疑問形で呟く。
「家族でケーキを食べましたよ。でも、あんまりパーティという感じではなかったです」
 またあのころみたいに、クリスマスパーティでお会いしたいですね、と彼女は言った。

       ※

 一通り電話をかけおえて、最後にオレは、もう一度八千代に電話を入れてみる。
 だが、どれだけコールしても、やはり彼はでない。
 ――大丈夫なのか?
 少し、不安になった。
 あいつは今、どこでなにをしているのだろう。
 諦めて、スマートフォンをポケットにしまったとき、玄関の方から音がきこえた。
 どうやら、家主が帰ってきたようだ。


■久瀬太一/8月21日/21時45分

 足音が聞えて、部屋に誰か入ってきたのがわかった。
 照明がついて、姿がはっきりとみえた。黒髪が綺麗な女性だ。年齢はよくわからない。おそらく30代だ。でも20代でも、40代でも不思議ではない。ミステリアスな雰囲気の女性だった。
 女性が口を開く。
「貴方、だれ?」
 とその女性は言った。
「久瀬太一、でわかりますか?」
 彼女の眉がぴくんと跳ねる。きっとこちらを知っているのだろう、と予想がついた。
 続けて尋ねる。
「貴女がノイマン?」
 彼女は頷く。
「どうして、貴方がここにいるのよ?」
「ほかに聖夜協会に繋がりそうな場所を知らなかったんです。八千代――ドイルも電話に出てくれない。ここしかなかった」
「にしても、紳士じゃないわね。勝手に女性の部屋に入るなんて」
 オレは鼻で笑う。
「男性であれ女性であれ、誘拐犯は誘拐犯です」
 ノイマンは息を吐き出し、向かいの椅子に座る。
「別の聖夜協会員が来たらどうするつもりだったのよ」
「それでもいいですよ。別に」
 無茶苦茶でも、とにかく状況を変えたかった。今回の件に関して、オレの立場はあまりに部外者だった。八千代がいなくなってそれを実感した。
 空を飛んで現場に駆けつけられないオレは、なりふりを構う余裕なんてなかった。
 一方で、ここにくればおそらく、ノイマンに会えるだろうことはわかっていた。
 ――オレは明日、彼女の能力で、あのドラゴンのいる奇妙な世界に飛ばされるはずだ。
 その前に、ノイマンと顔を合わせている方が自然なように思った。
「佐倉みさきはどこですか?」
 ノイマン――みさきと一緒にいる、とソルから伝えられていたスイマだ。
「私が答えると思う?」
「教えてくれないんですか?」
「残念だけど、そもそも知らない。数日前までは彼女と一緒にいたわ。でも別人に引き渡した」
「引き渡した?」
「協会内で、方針がかわったみたいでね。妙に抵抗するよりは、素直に従った方が安全だと判断した」
 ひと呼吸ほどのあいだ、オレは考える。
「方針を変えたのは、メリー」
「ええ」
「どう変わったんですか?」
「メリーはこれまで、あの子にはあまり興味がないようだった。でもここにきて興味を持ち始めた」
「どうして?」
「知らないわよ」
「そもそも貴女たちはどうして、みさきを狙うんです?」
「私は望んでないわよ。ただあの子を解放した方が危険だと思ったから引き取っていただけ。警察だってプレゼントのことなんか知らないしね」
「貴女は、みさきを悪魔とは呼ばないんですね」
「相手によるわよ。でも、少なくともあの子がただの人間だということは知っている」
 根拠はない。
 だが、ふと思い当って、オレは尋ねる。
「貴女が、ヨフカシですか?」
 ヨフカシ。スイマの中にいる裏切り者。
 具体的な根拠はなにもなかったが、彼女は別の聖夜協会員とは違うように感じた。
 ノイマンは首を傾げる。
「貴方がどんな意図で、ヨフカシという言葉を使っているのかによるわね」
「どういう意味です?」
 ヨフカシ、とは、個人を指す言葉ではないのか?
「たったひとり、あの夜に眠らなかった子供という意味では、私ではない。ただスイマを裏切っているものという意味であれば、あるいは私も含まれるのかもしれない」
 まったく、話がややこしい。
 誰もが勿体ぶっていて、わかりやすく説明する気はないようだ。
「あの夜ってなんですか?」
「12年前のあの夜よ」
 12年前。またそれか。
「その夜、なにがあったんですか?」
「よく知らないわよ。なんにせよ、そのクリスマスがきっかけで、聖夜協会はセンセイも英雄も失った。なにか大変なことがあったんでしょ」
 ずっと違和感がある。
「知らないって、へんですよね」
 12年前。セイセイがいなくなるきっかけ。
 みさきが悪魔と呼ばれる理由。
「どうして聖夜協会における重大な事件を、聖夜協会員が知らないんです?」
 ノイマンは首を傾げる。
「簡単な話よ。事情に詳しい人たちは、すでにもう、協会には残っていない。センセイと一緒に消えてしまった。それだけ」
 いったい、12年前に、なにがあったというのだろう?
 ――まあいい。
 答えの出ないことを、考えている暇はない。
「ともかく貴女は、スイマを裏切っているんですね?」
「別の目標のために行動している、と表現して欲しいわね」
「聖夜協会の目標っていうのは、つまりセンセイを取り戻すことですね?」
 強硬派、穏健派の区別に関わらず、そこは共通しているはずだ。
「よく勉強してるじゃない」
「でも、貴女はそうじゃない」
 ノイマンは頷く。
「私の目的は、ベルを護ることよ」


■久瀬太一/8月21日/22時00分

 ベル、とオレは、口には出さずに呟く。
「アレクサンダー・グラハム・ベル?」
「おそらく、彼からとった名前なんでしょうね。はっきりとはわからない。それは、ベルの物語と呼ばれている」
「それも、プレゼントなんですか?」
 ニールの足跡や、ドイルの書き置きに似た名前だ。
「ええ。まだ確認されていない、最後のプレゼント。センセイが初めて、センセイ自身のために用意したプレゼント」
「それを、貴女が護ろうとしている?」
「ええ」
「正体も知らないまま」
「そうよ」
 ノイマンは深呼吸のように、細く長く息を吐き出した。
 彼女はオレの向かいのチェアを引き、腰を下ろす。
「私たちはゲーム盤の上に並ぶ駒のようなものよ。そのマス目にいる意味を理解してはいない。ただプレイヤーの指示に従って、ルール通りに機能するだけ」
 プレイヤー。
 その言葉から、連想したものがあった。
 ノイマンが笑う。
「貴方の想像通りよ」
「え?」
「プレイヤーの一方は、ソルと呼ばれる」
 息を飲んだ。
 ――どうして、その言葉を知っているんだ?
 ソルについては、ファーブルも知らなかった。ソルは、聖夜協会とは関係のない存在だと思っていた。
 オレは首を振って、無理やりに平静を保つ。
「一方というのは、どういうことですか?」
「ゲームは対戦相手がいなければ成立しないでしょう」
「ソルは、誰と戦っているんです?」
「だれだと思う?」
「センセイ」
 そこに該当する人物を、ほかには思い当らなかった。
 でもノイマンは首を振る。
「いいえ。おそらく、そうではない。センセイは場所を譲っただけ。自分では勝てない相手と、ソルを向き合わせるために」
 センセイでは、勝てなかった相手?
 なんだ。それは、誰だ?
 ノイマンは続ける。
「これは、私の予想でしかない。ただの駒には、ボードの外のことはわからない。私たちはチェスのように、2色に塗り分けられているわけでもない。どの駒がどう機能しているのかもわからない」
 オレは息をとめて、ほんの短い時間、目を閉じる。
 また開いて、言った。
「そんなの、どうでもいいことだ」
 誰と誰が争っていようが、知ったことじゃない。
「オレはみさきをみつけないといけないんだ。あんたが知らないのなら、別の聖夜協会員に会いに行くだけです」
「どうやって?」
 わからない。
「貴女を誘拐したら、誰かは追いかけてきてくれるかな?」
「もっと手っ取り早い方法があるわ」
 ノイマンはテーブルに右ひじをついた。拳の上に顎を載せる。
「私はあの子の居場所を知らない。でも、貴方がそれを知る方法には、心当たりがある」
 オレは首を傾げる。
「協力してくれるんですか?」
「協力というのは、少し違うわね。私の目的と貴方の目的が、今この時だけ、たまたま噛み合っているだけ。私が出す条件をクリアできれば、より詳しく事情を知っている人物に会わせてあげる」
「条件?」
 とオレは聞き返す。
 ノイマンは笑った。
「貴方、ちょっと異世界まで行ってきなさい」

――To be continued


★★★シロクロサーガ攻略本の編集期限が8/21 27:00と宣言されていた事実が発覚。制作者による宣言。
★★★シロクロサーガ攻略本19-7が削除されていた事実が発覚。削除されたページについて報告。
★★★例外的措置として、削除されたページが復元。返信には100の謎が記されていた。

――水曜日のクリスマスには100の謎がある。

99番目の謎は、この物語を支配するルールとはなんだ、だ。

例外的措置


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最終更新日 : 2015-07-30

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