――水曜日のクリスマスには100の謎がある。
◇90: ソルはなんのために存在しているのか? ※8/19 24:10
◇91: ソルはなにを書き換えられるのか? ※8/19 24:10
54番目の謎は、英雄の証が証明するものはなんだ、だ。 ※8/20 ヒーローバッヂの状態に関するツイート
★久瀬へ:ソルが掘り出したヒーローバッヂの状態は向かって左側(右側の顔)が傷ついている ※8/19
★久瀬へ:ヒーローバッジは傷付いている ※8/19
★久瀬へ:証は傷ついていた ※8/19
★久瀬へ:画像を送ってあげて ※8/19
★久瀬へ:ヒーローバッヂは右側の塗装が剥げ、その下にピンク下地に白い字で「が」と書かれている。
他に少しだけ見えている字も合わせて推測すると「がんばれ」と書いているのではないかと思われる。 ※8/19
72番目の謎は、なぜ彼はそこにいるのか、だ。 ※8/20
★久瀬へ:着ぐるみに、お前は俺か?と尋ねてみてほしい。何言ってんのお前ーみたいな空気になったらごめん! ※8/19
【再】22番目の謎は、なぜこの物語は一部の情報が語られないのか、だ。
★久瀬へ:君は今、大学でどんな事を学んでいるのだろうか。現在の将来の夢や目標があったら教えて欲しい。
子どもの頃に描いた将来の夢ももしあったのなら是非聞かせて欲しい ※8/19
【再】10番目の謎は、水曜日のクリスマスとはいつなのか、だ。
★久瀬へ:最後に行ったクリスマスパーティは綺麗な半月でしたか? ※8/19
【再】21番目の謎は、彼らはどこにいるのか? だ。
★久瀬へ:八千代にメールできるか試してほしい。内容は一応「私は久瀬の友人だ。あなたに話したいことがある。」 ※8/19
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トナカイ > メリーさん、いらっしゃい。 (08/20-21:29:35)
トナカイ > ノイマンさん、いらっしゃい。 (08/20-21:30:00)
★ ノイマン > 悪魔をファーブルに引き渡したわ。
★ メリー > お疲れ様です。それで、どうかしましたか?
★ ノイマン > いえ。
★ ノイマン > 報告を入れただけよ。一応ね。
トナカイ > メリーさん、さようなら~。 (08/20-21:32:42)
トナカイ > ノイマンさん、さようなら~。 (08/20-21:32:47)
★久瀬へ:ヒーローバッヂの状態が何故重要なのか少年ロケットに聞いて
→【制作者からのメール】 先ほど送信されたメールは、「100の謎」のトリガーとなる情報が含まれているため、
彼には届かない。 その謎はすでに公開されている。54番目の謎は、英雄の証が証明するものはなんだ、だ。
★久瀬へ:バッヂの状態はこの方法では、何故か君に伝えることができない。
別の方法をとりたいが心当たりはないか?
→【久瀬さんからの返信】これまでソルたちと連絡をとれたのは、メールのほかにはあの攻略本?
とボカロ動画くらいだな。どちらも今、オレにはアクセスできないみたいだ。すまない。
★久瀬へ:どうも、メールではヒーローバッヂの状態を伝えられないようだ。
直接渡すなど別の方法を考えることにする
→【久瀬さんからの返信】わかった! ありがとう!
■久瀬太一/8月20日/22時35分
こんなところにいる暇はないんだ、とわかっていたけれど、オレはまだあの停留所にいた。
周囲を歩き回っても出口はない。道路はどこまでも続いているけれど、どれだけ歩いても、どこにも辿りつけない。振り返るとすぐ近くに停留所がみえる。バスもモノレールもやってこない。観覧車さえ動かない。
オレはベンチで何度か眠って、同じ回数、目を覚ました。
ここが夢の中だというのなら、夢の中で眠るというのもおかしな話しだ。眠っているあいだの記憶はなかった。夢もなにもみず、頭の芯に残っているまどろみの感触で、寝ていたとわかるだけだった。
「落ち着けよ」
ときぐるみが言う。
でも、落ち着いていられる場合でもない。
「さすがにそろそろ、目を覚ましたい」
「うん。そろそろだ」
「どうしてわかる?」
「なんとなくだよ。でも、ヒーローが目覚めないまんまなんてことはないだろ?」
オレはベンチの上でため息をつく。
その時だった。
また、スマートフォンが震えた。
★久瀬へ:恐らく君と私たちはとても遠くて会えない場所にいる
そしてタイムカプセルは恐らく別々に同じものを掘った でも掘り返した後はあったかい?
→【久瀬さんからの返信】いや、掘った跡はなかったな。
★久瀬へ:恐らく君はプレゼントによる記憶改竄を受けている、
もしかしたら君はプレゼントを保持しているのかもしれない。
バッヂの状態について知るとそれが破壊される可能性がある。
→【制作者からのメール】 先ほど送信されたメールは、「100の謎」のトリガーとなる情報が含まれているため、
彼には届かない。その謎はすでに公開されている。
24番目の謎は、なぜ彼は自身の状況を正確には認識できないのか、だ。
★久瀬へ:君の友達にタイムカプセルを埋めさせたのはおそらくアカテだ。彼は制作者とつながっているらしい
→【久瀬さんからの返信】アカテ? 八千代の知人か。わかった。ありがとう!
★久瀬へ:タイムカプセルはアカテという軍手にスーツの男が、
久瀬くんが入院してるときに、久瀬くんの愛媛時代の旧友に埋めさせたとのことですよ。
→【制作者からのメール】先ほど送信されたメールは、「100の謎」のトリガーとなる情報が含まれているため、
彼には届かない。近々、対応する100の謎を公開する。
★久瀬へ:ホールの荷物にあったメモはどうやらアカテが書いたものらしい。
君の見たと思われる、スーツに軍手の不思議な男だが、今回の件にかなり深く関わっているのかもしれない
→【久瀬さんからの返信】奇妙な話だな。タイムカプセルを埋めさせたアカテが、
それを掘るヒントをホールに渡したのか。なにがしたいのか、よくわからないな。ともかく、わかった。ありがとう!
■久瀬太一/8月20日/22時45分
はやいペースで、次々にメールが届く。
オレはそれに、必死に返答していく。
メールの中で気になったのは、「アカテ」と呼ばれる人物に関することだった。
アカテ――八千代の友人?
どうやらその人物が、越智や、白石や、山本に、あのタイムカプセルを埋めさせたようだった。
一方で、ホールへの書き置きを残したのもそのアカテ。
なにがしたいのか、見当がつかない。
行動が矛盾しているように思う。
――アカテって奴は、誰かにヒーローバッヂをみつけさせたかった?
例えば、ホールに?
いや、それはおかしい。
アカテがヒーローバッヂを隠したのなら、直接その場所をホールに伝えればいい。そもそもいちいちタイムカプセルを埋めたりせず、直接、ホールにそれを手渡せばいい。
結果、ヒーローバッヂはソルの手に渡った。
それはアカテが望んだことなのだろうか?
だとすればどうして、現場にホールを呼ぶ必要があったのだろう?
やはり、おかしい。目的がみえない。
――悩み込んでも、仕方がない、か。
意識の片隅に留めておこう。そう決めて、オレは次のメールをひらいた。
★久瀬へ:050-3159-6797 これはホールと思われる人物の電話番号だ。
暇ができたらかけてみるのも何か手がかりになるかもしれない。
→【久瀬さんからの返信】わかった、ありがとう!
★久瀬へ:今いる場所の周囲の様子を詳しく教えてくれ
→【久瀬さんからの返信】一見すると普通のバス停にみえる。
でもどれだけ歩いても、このバス停からは離れられない。人の気配はないし、なんの物音もしない。
空には相変わらず半月が浮かんでいる。
★久瀬へ:非現実」のドラゴンと対決する日は、こちらの計算では8/22だと思われる
→【久瀬さんからの返信】わかった、ありがとう!なんとなくあの「非現実」もみえてきたな。
22日に、ノイマンってスイマの力で、オレはあの奇妙な世界にいくのか……。
★久瀬へ:八千代はプレゼントを幼馴染からもらっていた。
ドイルの書き置きは望んだ相手からの連絡が得られる能力。
→【久瀬さんからの返信】わかった、ありがとう!幼馴染みからプレゼント、か。
プレゼントを生み出すのは「センセイ」だと聞いていたが、
センセイ本人から受け取っているわけじゃないってことなんだな。
★久瀬へ:4月8日は八千代にとっても大事な日付らしい アタッシェケースと関係があるかは不明だが、念のため
→【久瀬さんからの返信】単純に「オレの誕生日」ってわけでもないんだな。わかった、ありがとう!
★久瀬へ:まだハッキリとは分からないが、ドイルだけではなく、ニールの足跡も壊れた可能性がある
→【久瀬さんからの返信】わかった、ありがとう!
★久瀬へ:聖夜協会へのカードになり得えること。
メリーが偉い立場にあるのはプレゼントを渡す相手を選べる『良い子』だと思われているからだ。
「本物の良い子はヨフカシだけが知っている」つまり、メリーは本物の『良い子』ではない
→【久瀬さんからの返信】わかった、ありがとう!でも、メリーってのは本当に何者なんだろうな。
★久瀬へ:プレゼントについて。『センセイ』に選ばれた『良い子』が『プレゼント』を贈る相手を選ぶそうだ。
ヨフカシは本物の『良い子』を知っているらしい。八千代はそれを追っていた。
メリーは『良い子』と思われていたが、どうやらそうではないらしい
→【久瀬さんからの返信】わかった、ありがとう!プレゼントに関して、だいぶわかってきたよ。
さっきの八千代の幼馴染みってのも『良い子』だったわけか。やつぱり、「ヨフカシ」が気になるな。
■久瀬太一/8月20日/23時
それからしばらくは、「プレゼント」に関する情報が続いた。
八千代はやはり「ドイルの書き置き」というプレゼントを貰っていた。
それは、彼の幼馴染みから受け取ったもののようだ。
メールの内容をまとめると、こうだ。
プレゼントは、センセイから直接、手渡されるわけじゃない。
センセイは、「良い子」を選ぶ。
その「良い子」からの贈り物が、特別な力を持つ「プレゼント」になる。
そういう構造みたいだ。
メリーは次の「良い子」だとされていた。だから協会内で大きな力を持っていた。誰もが、メリーからのプレゼントを求めていた。
でも、あの雪という女性はいった。
――ヨフカシだけが、本物の良い子を知っている。
なら、メリーは偽物だということになる。
ソルはメールに、「聖夜協会へのカードになり得えること」と書いていた。
確かにその通りだ。
一方で、使いどころが難しいカードでもあった。
とにかく相手に向かって叫べばいい、というものではない。誰に伝えるのか、見極める必要がる。
――なんにせよメリーは、本来、それほど絶対的ではない?
八千代と話していた計画では、協会内における絶対的な権力者、メリーと話をつければみさきは解放されるはずだ、ということだった。でもそれも、万全の方法ではないようだ。
――やはり、ヨフカシか。
ヨフカシと、メリー。
そのふたりがキーとなる人物であることは、間違いないようだ。
★久瀬へ:きぐるみに、いつ生み出されたのか聞いてください。
→【久瀬さんからの返信】よくわからないんだが、あいつの答えをそのまま返す。
『ここ』からみると『まだ』生まれていない。……だ、そうだ。
★久瀬へ:電話がかけられるようになってからでいいので、
プレゼントを持っている人が、それぞれいつプレゼントをもらったのか、知ってそうな人や本人に聞いてほしい
→【久瀬さんからの返信】あまり思い当る相手はいないが、わかった。できるだけ考えてみる。
★久瀬へ:愛媛にいた頃に仲良くしていた3人と、今も連絡が取れたなら
何をしているのかとか訊いてもらえるだろうか
→【久瀬さんからの返信】そういえば、あいつらの連絡先は、ぱっと思い当らないな。
でも、方法はあると思う。やってみる。
★久瀬へ:キミと一緒にいるキグルミの傷は、顔の右側か左側か、
自分の顔として考えた時どちらになるか教えて欲しい
→【久瀬さんからの返信】向かって右側だ。だから左頬に、大きな傷がついているな。
★久瀬へ:ちょっと危ないかもしれないけど、着ぐるみの中には誰もいないの?傷から覗けない?
もしなんだったら手を突っ込んでみて
→【制作者からのメール】 先ほど送信されたメールは、「100の謎」のトリガーとなる情報が含まれているため、
彼には届かない。 その謎はすでに公開されている。72番目の謎は、なぜ彼はそこにいるのか、だ。
★久瀬へ:そのきぐるみ、脱がせられるんなら脱がしてやって
→【制作者からのメール】 先ほど送信されたメールは、「100の謎」のトリガーとなる情報が含まれているため、
彼には届かない。 その謎はすでに公開されている。72番目の謎は、なぜ彼はそこにいるのか、だ。
★久瀬へ:傷ついてるきぐるみを治してあげられるなら治してあげてください。
→【久瀬さんからの返信】さすがになおしようがわからないが……。
本人いわく、「そのうちなおるのに期待している」だそうだ。
★久瀬へ:今使っているスマホでも、自分のスマホでもいい、電話番号がわかるなら教えて欲しい
→【久瀬さんからの返信】オレの番号は、「050-3159-7456」だ。このスマートフォンの番号はよくわからない。
そもそも番号がないように思う。
★★★久瀬の番号に電話。→21: 彼らはどこにいるのか?
★久瀬へ:現在のミュージックプレイヤーの在り処を確認して欲しい。
八千代がメリーと電話で話した時、ミュージックプレイヤーの中身と思われる音声を聞かされている。
ミュージックプレイヤー中身の書き起こしの件と合わせて宮野さんに確認して欲しい
→【久瀬さんからの返信】わかった、今までの感触だと、どこにあるのかは訊けるような気がする。
中身は交渉次第だな……。
■久瀬太一/8月20日/23時15分
次のメールは、こうだ。
――きぐるみに、いつ生み出されたのか聞いてください。
生み出された?
なんだか、少し違和感のある表現だ。でも今、目の前にきぐるみがいるのだから、いつか生まれたのは間違いないだろう。
念のためにオレは、メールの通りの言葉を使って尋ねる。
「おい、お前が生み出されたのは、いつだ?」
きぐるみは首を傾げる。
「生み出されたってなんだよ」
「知らないよ。とにかく、いつ生まれたのかって訊いてるんだよ」
「そういう難しいことをきくなよ」
「どこが難しいんだよ?」
自分の生年月日くらいわかるだろう、誰だって。
「言い方次第だけどさ、ま、『ここ』からみると、『まだ』生まれてないよ、オレは」
「意味がわからないよ。ここってどこだよ?」
「みりゃわかるだろ。ここだよ」
そう言っていぐるみは、辺りを見渡す。
「生まれてないのにどうしているんだよ?」
「だから、難しいって言ってるだろ」
本当に難しいな。こいつはいちいち、シンプルじゃない。
「じゃあ、いつ生まれるんだよ?」
「わかるわけないだろ、まだ生まれてないんだから」
オレはため息をついて、とりあえずきぐるみの返答を、そのままメールに書いた。
※
オレは再び、メールに意識を向ける。
――プレゼントを持っている人が、いつからそれを持っているのか調べてください。
なかなか難しい頼みだ。
プレゼントを持っている知り合いといえば、八千代くらいしか思い当らないが、彼とは連絡を取れるのかも怪しい。ニール、ノイマン辺りの名前はよくきくが、共通の知人なんていない――強いていえば、それも八千代だ。リュミエールとグーテンベルクとは何度か顔を合わせているが、今は近くにいないし、連絡先もわからない。
いちおう、きぐるみに尋ねてみる。
「リュミエールとグーテンベルクが、いつからプレゼントを持っているか、知っているか?」
きぐるみはあっさり首を振る。
「いや。知らない」
珍しくシンプルな返事だが、役に立たないことには変わりない。
ため息をついて、オレは次のメールにいく。
※
メールには意外と、きぐるみに関して触れているものが多かった。
――傷ついてるきぐるみを治してあげられるなら治してあげてください。
という優しいメールに、つい微笑む。
「なあ、お前の傷ってなおせるのか?」
とオレは尋ねた。
少なくもオレはきぐるみの直し方なんて知らないし、ここにはきぐるみを直すような道具もない。
「どうかな」
ときぐるみは首を傾げる。
「そのうちなおるのに期待しよう」
「そのうちなおるのかよ」
「なおるかもしれないだろ、もしかしたら」
そんなものなのか。よくわからないが。
「ま、オレの傷なんてどうだっていいよ。自分じゃみえないしな」
そう言って、きぐるみは笑った。
★久瀬へ:恋をしたことがあるか?
→【制作者からのメール】先ほど送信されたメールは、「100の謎」のトリガーとなる情報が含まれているため、
彼には届かない。近々、対応する100の謎を公開する。
★久瀬へ:知らない人からキャンディーをもらったことはあるか?
後クリスマスパーティーで中学生くらいの女の子を見た覚えはないかい?
→【久瀬さんからの返信】クリスマスパーティに、中学生か、高校生くらいの女の子はいたと思う。
その子にキャンディをもらった覚えがあるな。
★久瀬へ:最後にパーティーに出席した年のクリスマス、きみはサンタ、あるいはそれ以外の誰かから
クリスマスプレゼントをもらってる?イエスなら、誰に何をもらったか教えて欲しい。ついでにその翌年の分も
→【制作者からのメール】先ほど送信されたメールは、「100の謎」のトリガーとなる情報が含まれているため、
彼には届かない。近々、対応する100の謎を公開する。
★久瀬へ:アイという名前の女の子を知っているかい?
→【久瀬さんからの返信】いや、思い当らないな。すまない。
★久瀬へ:君は小学生のときに入院していたようだけれど、覚えていない?
→【制作者からのメール】先ほど送信されたメールは、「100の謎」のトリガーとなる情報が含まれているため、
彼には届かない。近々、対応する100の謎を公開する。
★久瀬へ:ちえりさんに電話をすることがあったら、聞いてください。去年のクリスマスは誰と過ごしていましたか?
→【久瀬さんからの返信】わかった、訊いてみるよ。
★久瀬へ:いま、他に何か持ち物は持ってる?
→【久瀬さんからの返信】ソルのスマートフォン、自分のスマートフォン、財布。以上でぜんぶだ。
★久瀬へ:君がグーテンベルクに見せられた小冊子は 「タイムカプセルの由来」というタイトルだったか?
それを読んで君はどう感じた?
→【久瀬さんからの返信】そんなタイトルだったと思う。感想は、言葉にし難いな。
少なくとも、オレの記憶にはない内容だった。
★久瀬へ:君はヒーローバッヂをいつなくしたか覚えているか?
→【久瀬さんからの返信】残念だが、そもそもヒーローバッヂを手に入れた記憶がないんだ。
イラストをみたとき、あれがヒーローバッヂだとわかったから、どこかで持っていたように思うが……。すまない。
■久瀬太一/8月20日/23時30分
ちえりさんに電話をすることがあったら、聞いてください。去年のクリスマスは誰と過ごしていましたか?
※
というメールを読んで、思わず眉を寄せた。
――ずいぶん久しぶりに再会したってのに、急にクリスマスの相手を尋ねるのは、ちょっと失礼じゃないか?
いや、急ににしなればいいのか。
上手いこと会話で誘導すればいいのか。
残念ながら、そんなトークスキルはないが、まあ頑張ってみよう。ソルからのメールなのだから冗談だとも思えない。
なんにせよ彼女が、楽しいクリスマスを過ごしていたならいいなと思う。
※
必死に返信を打ち込みながらメールを読み進めるる。
グーテンベルクから受け取ったあのちゃちな冊子に関するメールがあった。
――それを読んで君はどう感じた?
難しい質問だ。昔から読書感想文なんてものは苦手だったけれど、そんな問題でもない。
――あれには、オレが愛媛からいなくなってからのことが書かれていた。
でも、オレはちょうどその辺りの記憶がない。
あの小冊子によれば、小学3年生の冬ごろ、オレは愛媛を離れたようだった。
――本当に?
まったく、思い出せない。
オレは以前から、自分の記憶力が悪いと思っていた。
物忘れが激しい。昔の思い出の多くを忘れてしまっている。
でも最近――この一連の事件で、違うのだとわかりつつあった。
オレからは特定の記憶が抜け落ちている。
それがないことに、日常生活ではきづかない。
でも意識してみると、ちょうど小学3年生の冬ごろからの記憶がないことに気づく。
――どうして。
自分でも少し、気味が悪い。
あの冬、いったいなにがあったというのだろう?
★久瀬へ:バス停から見える半月について、欠けているのは、左右どちらですか?
→【久瀬さんからの返信】右側が欠けているな。左側が明るい。
★久瀬へ:最後にクリスマス会に行った時、そこにいた子どもはみさきさんとちえりさんだけ?
もう少し大きい子達はいなかった?
→【久瀬さんからの返信】オレと同じくらいの年齢の子供は、みさきとちえりだけだ。
中学生か高校生くらいにみえる人たちは何人かいた。
★久瀬へ:バスや停留所も半月で、きぐるみが傷ついたのも半月のときだ。
何か関係性がありそうだけど、久瀬くんどう思う?
→【久瀬さんからの返信】キーになる「半月の夜」があるのかな、と思う。
あのバスが未来に向かって走っているなら、このバス停は「今」か「過去」かのどちらか?
でも現実の「今」は半月じゃないはずだ。
★久瀬へ:君はどうしたい?いつも、私たちから質問するばかりだ。
久瀬くん、君のほうで何か気になること、私たちソルの力を借りたいことはないのかな?
→【久瀬さんからの返信】本音をいうと、オレもそっち側にいきたいな。とにかく今は、8月24日をどうにかしたい。
メリーに会う方法、みさきの居場所、あるいはヨフカシの正体。そのどれかがわかると嬉しい。
★久瀬へ:子供の頃突然スマホが手に入ったことはないか?
→【久瀬さんからの返信】いや、そんな記憶はないな。
★久瀬へ:バスに運転手はいたか
→【制作者からのメール】先ほど送信されたメールは、「100の謎」のトリガーとなる情報が含まれているため、
彼には届かない。近々、対応する100の謎を公開する。
★久瀬へ:八千代は過去の出来事から『飴をあげる』という行動を大事にしているようだ。
機会があったら受け取ってあげると良いと思う。『飴は人を幸せにする』んだ
→【久瀬さんからの返信】わかった。ありがとう!もし次にそんな機会があれば、必ず受け取るよ。
★久瀬へ:もし八千代がキャンディを勧めてこなければ、久瀬君が勧めたげて。
その分だけの幸せがそこにあるから。
→【久瀬さんからの返信】わかった。キャンディは買っておく。
★久瀬へ:夏の思い出、虫取りやラジオ体操やプールの記憶はあるか?
→【久瀬さんからの返信】それなりにはあるな。ラジオ体操には真面目に出るタイプだったよ。
★久瀬へ:現実で悪魔と思われる人物にあったらビンタしといて
→【久瀬さんからの返信】なんだ、それは……。よくわからないが、とりあえず覚えておくよ。
★久瀬へ:教典を読んだことがあったと思うが、
悪魔が協会に嫌われる理由にあたる記述があったか心当たりはあるか?
→【久瀬さんからの返信】いや、あの教典には、ほとんど悪魔に関する記述はなかった。すまない。
★久瀬へ:動画に関してで繰り返しになるけどコメントは他になかったかい?
前にあった佐倉さんの爆弾事件の時に使われたコメントがまだ流れていたはずなんだが
→【久瀬さんからの返信】コメントはあったと思う。あまりよくは理解できなかったが、
なにがあったのかおおよそ想像がついた。みんながみさきを助けてくれたんだな、ありがとう!
★久瀬へ:ちえりに言って、みさきとちえりの2人が写っている写真を入手して欲しい
→【制作者からのメール】先ほど送信されたメールは、「100の謎」のトリガーとなる情報が含まれているため、
彼には届かない。近々、対応する100の謎を公開する。
■久瀬太一/8月20日/23時45分
君はどうしたい? いつも、私たちから質問するばかりだ。久瀬くん、君のほうで何か気になること、私たちソルの力を借りたいことはないのかな?
※
――というメールを読んで、それが思考するきっかけになった。
ソルたちに対して、気になることは無数にあった。
一体、どんな集団なんだ? どうしてオレに手を貸してくれるんだ?
とはいえ、それは純粋な好奇心で、今すぐ手に入れなければいけない情報ではないように思う。ソルたちが何者であれ、これまで何度もオレを助けてくれたことにかわりはない。
今、オレが目指しているのはなんだろう、と考える。
なによりも問題なのは、8月24日のみさきだ。バスの窓からみえたあの景色をなんとかしなければならない。
そのためにオレはヒーローバッヂを探していた。ヒーローバッヂがあれば、メリーと交渉できる可能性が高い、と八千代にきかされていたからだ。
その路線を進むなら、ソルが持っているヒーローバッヂを使って、メリーと交渉することになる。
でもこれには、多少の不安材料もある。メリーが「本物の良い子」ではない可能性があるとわかっている。メリーが聖夜協会内において、絶対的な存在でないのなら、彼女の力でみさきを救う計画は破綻するかもしれない。
みさきの居場所がわかれば、直接そこを目指す、という方法も取れる。聖夜協会全体をオレが相手にするのは、さすがに愚かな選択だと思うが、8月24日に限ればなんとかなるかもしれない。とにかくその1日に焦点を合わせて考えたい。
それから、ヨフカシ。「本物の良い子を知っている」という、スイマたちの裏切り者。今のところ、ヨフカシの正体はみえない。でもその人物が鍵になることは間違いない。
メリーの路線を続けるか、直接みさきを目指すか、ヨフカシを探し出すか。
オレに思いつくのは、このみっつくらいだ。
だが、正直なところ、どれも情報が足りていない。
――どれでもいい。
とにかく情報が手に入ったらそちらに向かって突き進もう、と決める。
もう時間はあまりない。
※
それから、やはりメールには、八千代についてもいくつか触れられていた。
どうやらあいつにとって、キャンディは重要なものらしい。
――機会があったら受け取ってあげると良いと思う。
とソルはいう。
そういえばオレは、あいつにキャンディをさしだされても、だいたいは断っていたように思う。受け取ったことはあっただろうか。よく覚えていない。
こちらから彼にキャンディを勧めろ、というメールもあった。
そうだな、もし再会した時のために、キャンディをひと袋買っておこう。
そう決めた。
★久瀬へ:こちらで掘り出したタイムカプセルには KoBa という文字が書かれていた.
この文字に心当たりはないか?
→【久瀬さんからの返信】すまない。まったく思い当らない。
★久瀬へ:「青と紫の節、9番目の陰の日」は「8月22日」と思われます。
→【久瀬さんからの返信】わかった、ありがとう!もうすぐだな、緊張するよ。
★久瀬へ:久瀬さんが実際にドラゴンと対決する日、青と紫の節、9番目の陰の日は8月22日と思われます。
気をつけて、無事の帰還を祈っています
→【久瀬さんからの返信】ありがとう!できるだけ無事に帰ってこられるように頑張るよ。
★久瀬へ:もしこのあとゲームの世界に入ってサクラ姫に出会ったら『下の名前』を尋ねてみて欲しい
→【久瀬さんからの返信】それはオレも気になっていた。ぜひ、訊いてみようと思う。ありがとう!
★久瀬へ:メリーは今の聖夜協会には興味がなくて、仕方なく今の立場にいるだけなんだって。
それで何かをしようとしてるみたいなんだって。
→【久瀬さんからの返信】そうなのか……。本当に、メリーはよくわからないな。
★久瀬へ:その月って上弦の月?下弦の月?
→【久瀬さんからの返信】知識があやふやで申し訳ないが、たぶん下弦の月であっていたと思う。
★久瀬へ:停留所は未来?過去?って聞いてみて
→【制作者からのメール】 先ほど送信されたメールは、「100の謎」のトリガーとなる情報が含まれているため、
彼には届かない。 その謎はすでに公開されている。2番目の謎は、バスはどこからどこへと向かうのか、だ。
★久瀬へ:バスの運転手って誰かわかる?
→【制作者からのメール】先ほど送信されたメールは、「100の謎」のトリガーとなる情報が含まれているため、
彼には届かない。近々、対応する100の謎を公開する。
★久瀬へ:久瀬くんはバスに乗ってるそいつのことをきぐるみって呼んでるけど、ぬいぐるみではないの?
人がそれを身につけている感じなの?
→このメールを送ったけど、返信がありません。電波が切れちゃったみたいです……。
■久瀬太一/8月20日/24時
久瀬くんはバスに乗ってるそいつのことをきぐるみって呼んでるけど、ぬいぐるみではないの?人がそれを身につけている感じなの?
※
そういえば、と思い当る。
人間くらいに大きくて、動いて喋るからきぐるみだと思い込んでいたけれど、ぬいぐるみがしゃべっていたとしても、今さら驚かない。
「お前、中に人間が入ってるのか?」
とオレは尋ねる。
「なんだ、中をみたいのか?」
ときぐるみは言った。
「そりゃまあ」
気にはなる。
「余計なことに気を取られてる場合じゃないだろ、ヒーロー」
ときぐるみが言う。
「オレはヒーローじゃない」
「そうだよ。みんな嘘だ。それでもお前は、ヒーローになるんだろう?」
「知らねえよ」
ヒーローって、なんだ。
オレはただ、平穏で。みんなが普通に幸せなら、それでいい。
「頑張れよ」
ときぐるみが言った。
「頑張って、頑張れ。この言葉が綺麗に聞こえるまで。へとへとになってぶったおれるまで、頑張れ」
きぃん、と耳鳴りのような音が聞こえた。
それはなにか、鈴の音のようでもあった。
「当たり前だろ」
ヒーローなんかじゃなくっても、当たり前だ。
ずっと昔、オレは嘘をついた。
「さて、そろそろお別れみたいだが――」
きぐるみが、両手で自身の頭をつかむ。
「お前がみたいなら、中をみせてやってもいい」
本当に?
「本当にお前、中身あるのかよ?」
なんだかこいつは、こういう物体なのだと思っていた。
「どうかな? あるかもしれないし、ないかもしれない」
当然、きぐるみは、いつものように笑っている。
「自分でみてみろよ」
ゆっくり、その頭が持ち上がる。
――そりゃそうだ。
きぐるみには、中身がいる。
消毒液の匂いがした。
■久瀬太一/8月20日/24時05分
消毒液の匂いがした。
――きぐるみの、中身。
オレは、それをみたのか? みなかったのか?
どうしても思い出せなかった。長い夢がどこで終わったのか、わからなかった。
オレは目を開く。白いシーツの上に横たわっている。
激痛を感じて、左頬を押さえた。顔の半分が、ずきん、ずきんと痛んだ。
――ふざけんなよ。
となにかに悪態をつく。
眠り過ぎたせいか、寝起きの激痛の影響か、意識がなかなか繋がらなかった。
ここは。辺りを見回して、わかる。
ここは病院だ。どうやら個室に入っているようだ。
――オレは、どれだけ眠ってたんだ。
枕元にスマートフォンがあった。それをみて、舌打ちする。
日づけはもう、8月21日になっている。24日は、目の前だ。
全身が妙に気だるい。
でも、身体は動いた。
なら動かないといけない。走らないといけない。
――どこに?
わからないけれど、余裕はない。
動くんだ。走るんだ。考えるんだ。
いまだ顔の半分はずきずき痛む。その痛みで意識が鮮明になる。
オレはベッドから立ち上がる。
ロッカーを開くと、オレの服があった。
安っぽいジーンズとTシャツだ。
病院着を脱ぎ捨てて、それに着替える。
古ぼけたスニーカーに足をつっこむ。右のポケットにふたつのスマートフォンを入れる。左のポケットに財布を入れる。ほかにはなにも持っていない。
どうやら入院していたようだが、財布もスマートフォンもあったんだ。父に連絡がいっていないということはないだろう。費用はそちらに請求されるはすだ。
動け。走れ。考えろ。
たった数日でも筋肉が衰えるのか、足が重い。
それを無理やりに動かして、オレは駆け出す。
――To be continued
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最終更新日 : 2015-07-30