【報告書】作成者:ましろ

Top Page › 3D小説「bell」 【第1部】 › 8月19日(火)
2014-08-19 (Tue) 23:59

8月19日(火)

8月18日(月) ← 3D小説「bell」 → 8月20日(水)

――水曜日のクリスマスには100の謎がある。

◇18番目の謎は、キャンディを愛する少女の「物語」を決めたのは誰なのか、だ。 ※8/19

・八千代がミュージックプレイヤーを受け取った、もうひとつの記憶。 ※8/18 20:30


【再】10番目の謎は、水曜日のクリスマスとはいつなのか、だ。 ※8/19

・八千代がミュージックプレイヤーを受け取った、もうひとつの記憶。 ※8/18 20:30


-----------------------------------------------------------------------------

■久瀬太一/8月19日/23時

 時間の感覚がなかった。
 オレはベンチに腰を下ろして、半月を見上げていた。
 あの、バスの停留所だ。でもバスはやってこない。
 ここは夢の中なのだろう。オレは目を覚まさなければいけない。時間はもうない。なのにここから、出られない。
 ――目を開け!
 とオレは叫ぶ。
 こんなところで、のんびりしているわけにはいなかない。
 なのに、オレの周りのすべてが停滞していた。月も動かず、虫も鳴かない。
 ただ顔の左半分が、ずきん、ずきんと痛む。
 その時。
 ふいに、背後から、「よう」と呑気な声がきこえた。

       ※

 あのきぐるみがのっそりと、ベンチの隣に腰を下ろす。
「いつまで寝てんだよ、情けないな」
 ときぐるみは言った。
 まったくだ。8月24日まで、もう時間がない。
 オレは平和にうたた寝している場合じゃない。
 でも、どうしたらいい? ヒーローバッヂは結局手に入らなかった。オレはこの停留所から動けないでいる。
 オレはどうしたらいい?
 どうしたら、彼女の元に駆けつけられる?
「オレだって、さっさとこんな場所から出ていきたいよ」
「なら目を覚ませばいい」
「それができないから困っている」
「問題は、ヒーローバッヂの状態だ」
「ヒーローバッヂ?」
 きぐるみはいつもの通りに、不敵な顔で笑っている。
「証は傷ついているのか、いないのか。それが問題だ」
 わからない。
 そんなものが、なんだっていうんだ?


★久瀬へ:もし機会があれば、お父さんに佐倉祖父は謎解きが好きだったかどうか。
 また少年ロケットのキーホルダーは誰に貰ったのか聞いてほしい。
 →【久瀬さんからの返信】わかった、訊いてみる。でも今はちょっと特殊な場所にいるようで、電話をかけられない。
 少し待ってくれ。
★久瀬へ:宮野さんと一緒に水曜日の謎について調査して回った場所(十字路、薄暗い部屋、カフェ、バス停)、
 あれは広告主から指定された場所だったのか、宮野さんの判断でそこに行ったのか。宮野さんに聞いてみて欲しい
 →【久瀬さんからの返信】ある程度は、広告主からの指示だったように思う。
 電話をかけられるようになったらきいてみる。少し待ってくれ。
★久瀬へ:今現在、雪という人物から宮野さんにどんな指示が出ているのか知りたい。
 君と会っていない間、宮野さんがどこで何をしていたのか、今はどんな調査をしているのか、
 さりげなく聞き出して欲しい
 →【久瀬さんからの返信】彼女はああみえて職務に忠実だから、上手く訊き出せるかわからないが、わかった。
 これも、まとめて訊いてみる。
★久瀬へ:八千代に、大阪の部屋に新品のクリスマスカードが2通あったらしいが、
 それは重要なものか?と訊いてほしい
 →【久瀬さんからの返信】八千代と連絡が取れるかは、少し微妙だが……。
 元々、電話はしてみるつもりだったから、繋がったら訊いてみるよ。
★久瀬へ:お父さんに佐倉祖父がいなくなったのが正確には何年前か聞いてほしい。
 いなくなって10年になると言っていたが、ちえりが最後のクリスマス会は12年前と言っていて、
 センセイの失踪と関連付けるなら1年空白があるのが気になるためです
 →【久瀬さんからの返信】わかった、訊いてみる。少し待ってくれ。
★久瀬へ:久瀬くんのお父さんまたは八千代に聖夜協会の入会の仕方をきいてくれ
 →【久瀬さんからの返信】父は、「友人に誘われた」と言っていたな。
 なんにせよ父には電話をする予定なので、確認してみる。八千代の方は繋がるか不安だな。
★久瀬へ:ソルが久瀬君と連絡を取っていた動画は7月30日に送った例の動画なんだ。そこで3つ聞きたいのだけど
 1,みさきさんが危機の時したソルとのやりとりがコメントで残っているはずだけどそれは見れたか
 2,あの動画のメロディなど聞き覚えはあるか
 3,その動画にまたアクセスする事は可能だろうか
 あともう一つアクセス関係で例の越智君のお兄さんのブログなんだけど、これは見れるかい?
 http://ponthe1.hatenablog.com
 →【久瀬さんからの返信】メロディには、なんとなく聞き覚えがある気がする。
 オレも試してみたんだが、あの動画にはアクセスできなくなってしまった。下のアドレスも、やっぱり繋がらない。
★久瀬へ:君は今、大学でどんな事を学んでいるのだろうか。現在の将来の夢や目標があったら教えて欲しい。
 子どもの頃に描いた将来の夢ももしあったのなら是非聞かせて欲しい
 →【制作者からのメール】 先ほど送信されたメールは、「100の謎」のトリガーとなる情報が含まれているため、
 彼には届かない。 その謎はすでに公開されている。
 22番目の謎は、なぜこの物語は一部の情報が語られないのか、だ。

■久瀬太一/8月19日/23時15分

 ポケットの中で、スマートフォンが震えた。
「お」
 ときぐるみが、嬉しげな声を出す。
「電波?」
 この瞬間は、なかなかなれない。いつも胸がどきりとする。
 オレはスマートフォンを引っ張り出す。
 ――彼らからのメールだ。
 オレは慌てて、メールを開く。
「どんなメール?」
 と隣のきぐるみが言ってくるが、かまってはいられなかった。
 オレは必死に返信する。

       ※

 まずは知り合いに尋ねて欲しい、といった内容のメールが続く。
 父には、みさきの祖父は謎が好きだったのか、と、彼がいなくなった正確な時期。それから少年ロケットのキーホルダーの入手元と、聖夜協会に入るむ方法について調べて欲しい、とのことだった。
 宮野さん宛ての質問も、いくつかある。主に宮野さんとあの広告主――雪に関する質問だ。水曜日の噂のときの調査は、どこまで雪に指示されていたのか? 雪から今、どんな指示を受けているのか? 宮野さんはああみえて、根は真面目なタイプだと思っている。どこまで訊き出せるかわからないが、とりあえずやってみよう。
 それから、八千代宛ての質問。
 タイムカプセルを掘り起こしたとき、彼は言った。
 ――君の仕事はここまでだ。
 元々、八千代と「手を組む」約束は、ヒーローバッヂをみつけるまでだった。あのタイミングでオレを切り捨てることを決めていたのだろう。
 ショックはでかいが、納得もしていた。警戒が足りなかったな、という、反省の方が強い。
 ――あいつと連絡が取れるだろうか?
 わからない。難しいように思う。
 電話が繋がったとき、なんと言えばいいのかもよくわからない。
 でも八千代からの情報は欲しい。不思議なことだが、オレは今もあいつを、少しだけ信頼している。ただの感情論だけど、彼のなにかに共感している。
 ――ここを出られたら、まずはあいつに電話をしよう。
 そう決めた。

       ※

「メール打つのって大変じゃない?」
 と隣で、きぐるみが呑気なことを言っている。
 気にしてはいらなれない。
 続いては、ファーブルのところでみた動画に関する話だった。
 ――少年ヒーロー。
 そんなタイトルの、ボーカロイド動画。
 不思議なことに、あの動画には、こちらからはアクセスできない。ソルとファーブルがゲームをした夜、ビルを出てから何度か試してみたが、動画がないと言われてしまった。なにか特殊な方法でなければ接続できないのだろうか? 条件のようなものがあるのだろうか?
 なんにせよ、オレが自由にみえる動画ではないようだ。


★久瀬へ:最後に行ったクリスマスパーティは綺麗な半月でしたか?
 →【制作者からのメール】 先ほど送信されたメールは、「100の謎」のトリガーとなる情報が含まれているため、
 彼には届かない。 その謎はすでに公開されている。10番目の謎は、水曜日のクリスマスとはいつなのか、だ。
★久瀬へ:八千代にメールできるか試してほしい。内容は一応「私は久瀬の友人だ。あなたに話したいことがある。」
 →【制作者からのメール】賢明で行動力に溢れる諸君。残念だが、この方法では連絡は取れない。
 君たちと彼らは極めて遠く離れている。通常、電波は届かない。別の手段を捜してほしい。
 水曜日のクリスマスには100の謎がある。21番目の謎は、彼らはどこにいるのか? だ。
★久瀬へ:ソルが掘り出したヒーローバッヂの状態は向かって左側(右側の顔)が傷ついている
 →【制作者からのメール】先ほど送信されたメールは、「100の謎」のトリガーとなる情報が含まれているため、
 彼には届かない。近々、対応する100の謎を公開する。
★久瀬へ:ヒーローバッジは傷付いている
 →【制作者からのメール】先ほど送信されたメールは、「100の謎」のトリガーとなる情報が含まれているため、
 彼には届かない。近々、対応する100の謎を公開する。
★久瀬へ:証は傷ついていた
 →【制作者からのメール】先ほど送信されたメールは、「100の謎」のトリガーとなる情報が含まれているため、
 彼には届かない。近々、対応する100の謎を公開する。
★久瀬へ:画像を送ってあげて
バッヂらしきものアップ
 →【制作者からのメール】先ほど送信されたメールは、「100の謎」のトリガーとなる情報が含まれているため、
 彼には届かない。近々、対応する100の謎を公開する。
★久瀬へ:久瀬くん届いてるか?
 →【久瀬さんからの返信】届いている! いつもありがとう!
★久瀬へ:八千代はドイルの能力を失ったかもしれない
 →【久瀬さんからの返信】あっちも、なにもかも計画通りって感じじゃないのか……。わかった、ありがとう!
★久瀬へ:少年ロケット(きぐるみ)の傷はいつからあるのか
 →【久瀬さんからの返信】なんか、ぼやっとした返事だが、とりあえず「半月の夜」みたいだ。
 すまない、あいつとの会話は難しいんだ。
★久瀬へ:八千代が持って行ったタイムカプセルにはヒーロバッヂは入っていない。
 そしてファーブルが言っていた「ドイルの書置き」は本当だった。
 →【久瀬さんからの返信】バッヂ、なかったのか……。そりゃそうか、あれはソルが確保したって言ってたもんな。
 ドイルの書き置きについては、わかった! ありがとう!

■久瀬太一/8月19日/23時35分

 ソルからのメールの中にきぐるみへの質問に関するものが混じっていた。
 オレはそれを、そのまま尋ねる。
「おいきぐるみ。お前の傷って、いつからあるんだ?」
「傷?」
 きぐるみはなんだかむかつく笑顔で首を傾げる。
「傷ってなんだよ?」
「お前についてる傷だよ。わかるだろ」
「え、傷とかついてるの?」
「一目瞭然だろ。自覚ないのかよ」
「いやお前、きぐるみに痛覚はないよ」
 そんな正論で返されても困るが。
「なにか思いあたることはないのか?」
「もしオレが傷ついているんだとしたら、それは決まってる」
 きぐるみはベンチから、丸っこい手で空を指す。
「こんな月の夜だろ」
 ――どういうことだ?
「半月が、どうしたっていうんだ?」
 きぐるみは首を傾げる。
「本当にわからないのか?」
 わからない。こいつが、なにを言っているのか。
 きぐるみは言う。
「わからないのが正しいのか、わかってる方が正しいのか、オレにはわからないよ。でもま、いつかわかるだろ、たぶん」
 本当に、こいつの会話はよくわからない。
 ――とりあえず、こいつが傷ついたのは、半月の夜、か。
 そうメールに返信して、オレは次のメールに行く。


★久瀬へ:いまバス停にいるので合ってるか?スマホを夢の中で使って返信しているのか?
 →【久瀬さんからの返信】それで間違いないと思う。
 少なくともあのバス停で、いつものスマートフォンで返信している。
★久瀬へ:着ぐるみに、お前は俺か?と尋ねてみてほしい。何言ってんのお前ーみたいな空気になったらごめん!
 →【制作者からのメール】先ほど送信されたメールは、「100の謎」のトリガーとなる情報が含まれているため、
 彼には届かない。近々、対応する100の謎を公開する。
★久瀬へ:後八千代に連絡する時は、少しで良いので
 自分がどうして八千代に連絡するか冷静になって考えてください。
 →【久瀬さんからの返信】よくわからないが、わかった。覚えておくよ。
 あいつに対してはとくに、冷静な方がいいと思う。
★久瀬へ:ソルが掘り出したタイムカプセルには『ポケモン赤』『怪盗セイントテールのCD』『サバイビーのコミック1巻』
 が入ってたのだけど,それらに心当たりはないか?
 →【久瀬さんからの返信】……ずいぶん古いな。ポケモンしかわからない。すまないが、心当たりはないな。
★久瀬へ:ヒーローバッヂを自分で持っておきたい?
 →【久瀬さんからの返信】聖夜協会を相手にするカードにはなりそうだから、できるなら欲しい。
 実物を見てみたい、というのもある。……でも、それをみるのが少し怖いな。
 身体が拒否するみたいに痛むんだ。不思議だ。
★久瀬へ:ヒーローバッヂは右側の塗装が剥げ、その下にピンク下地に白い字で「が」と書かれている。
 他に少しだけ見えている字も合わせて推測すると「がんばれ」と書いているのではないかと思われる。
 →【制作者からのメール】先ほど送信されたメールは、「100の謎」のトリガーとなる情報が含まれているため、
 彼には届かない。近々、対応する100の謎を公開する。
★久瀬へ:久瀬ええええ!起きろおおおお!
 →【久瀬さんからの返信】まったくだ!オレも起きたいし、起きないといけないはずだ。

■久瀬太一/8月19日/23時50分

 そのメールを目にしたとたん、また。
 顔の左半分が、ずきんと痛んだ。

       ※

 ヒーローバッヂを自分で持っておきたい?

       ※

 さすがに、なんとなくわかっていた。
 ヒーローバッヂに関する情報に近づいたとき、オレの身体は異変をきたすようだった。
 ――いや。 
 ふと、思い出す。
 ひとつ、例外に思い当る。
 ――この停留所に初めて来たときも、同じ痛みがあった。
 もうあまりよく覚えていないけれど、たしか、そうだったように思う。
「なあ、きぐるみ」
 顔を押さえて、オレは尋ねる。
「あのヒーローバッヂとこの停留所は、なにか関係があるのか?」
 きぐるみは首を傾げる。
「どうかな。その辺りは、べらべらと喋れないんだ」
「どうして?」
「いろいろと都合があるんだよ。簡単には決められないんだ」
「決めるって、なにを?」
 きぐるみはもう答えなかった。
 ただ、ぼんやり空の半月を見上げていた。
 ため息をついて、オレは次のメールを開く。

       ※

 久瀬ええええ! 起きろおおおお!

       ※

 とシンプルに、そこには書かれていた。
 オレはつい笑う。
 ――そうだ。オレは、起きなきゃいけないんだ。
「おいきぐるみ。いい加減、どうしたら目を覚ませるのか教えてくれよ」
 きぐるみははこちを向いた。
「オレも知らないよ。でもま、そのうち起きるだろ」
「ヒーローバッヂの状態がわかったら、か?」
「いや。『どっちか』によっては、しばらく起きられない」
 なんだかきぐるみが笑ったような気がした。
「確定していない今なら、まあそのうち目が覚めるはずだ」


★久瀬へ:どうやら「ノイマンの世界」という能力であのファンタジー世界に連れ込まれるようだ。
 今後、ノイマンを名乗る人物に接触する場合は注意してくれ」
 →【久瀬さんからの返信】わかった、ありがとう!覚えておく!
★久瀬へ:八千代が持っていったタイムカプセルにはバッヂは入ってなかったようです。
 彼はメリーと電話で話をしてから、記憶の混濁が起きていると思われます。
 情報源をなくしたくないので、電話をする際はあまり刺激し過ぎないように気をつけてください
 →【久瀬さんからの返信】了解した。ありがとう!そもそも連絡がとれるのかも怪しいが、覚えておく。
★久瀬へタイムカプセルは八千代が持ち去り、それをダシにメリーと面会を図ったが失敗した。
 また、そちらにあったタイムカプセルにはヒーローバッジは入っていなかったようだ
 →【久瀬さんからの返信】あいつ、大丈夫なのか……。なんにせよ、状況がよくわかった。ありがとう!
★久瀬へ:八千代もヒーローバッヂは手に入れられなかった
 →【久瀬さんからの返信】あのタイムカプセルには、ヒーローバッヂは入ってなかったみたいだな。
 ……じゃあ、中身はなんだったんだろう?なんにせよ、ありがとう!
★久瀬へ:八千代からもらった古い協会員名簿はどこにありますか?
 家にあるなら一度家に取りに戻ってみてください。その名簿が手に入ったらニール、ノイマン、アカテ、ホール、
 ファーブルの電話番号とメールアドレスがないか探してみてください
 →【久瀬さんからの返信】そういや、あれのことを忘れていたな……。
 確か偉人じゃない、普通の名前が並んでいたはずだ。
 八千代が古いものだと言っていたから、まだそういうあだ名ができる前かもしれない。
★久瀬へ:この間メールしたときにスマホの受信・送信履歴を見てほしいと書きましたが、
 その後ファーブルが持っていた間のメールは見れましたか?少し気になっているんで教えてください
 →【久瀬さんからの返信】そうだ、報告を忘れていた。履歴はみえなかった。
 ファーブルが消したんじゃないか、と思っているんだけど、どうだろう?
★久瀬へ:となりのきぐるみに「お前の状態はバッヂと関係があるのか?」とたずねてほしい
 →このメールを送ったけど、返信はきていません……たぶん、電波が切れちゃったみたいです。

■久瀬太一/8月19日/24時10分

 電波が切れた。
 オレは最後に、滑り込むように届いたメールを確認する。
 またきぐるみに対する質問だ。
「なあ、お前が傷ついているのは、バッヂの状態と関係があるのか?」
「どうかな?」
 と、きぐるみが首を傾げる。
「別に、バッヂがどうなったかで、オレがどうこうなるわけじゃねぇよ。でもまあ、まったく関係がないとも言えない」
「相変わらず、お前の答えはよくわからないな」
「よくわからない方がいいんだよ」
 ずきん、と顔が痛む。
 ――きぐるみと、バッヂの状態。
「バッヂも、お前と同じように、傷ついているのか?」
 そう口に出したとたん、痛みが増した。
 痛みは顔から、全身に広がっていた。身体から体温が抜け落ちていくように感じた。
 ――なんだ?
 一瞬、なにかを。
 半月の夜のなにかの風景を、みたような気がした。
 なんだ? オレは、走っていて、そして――
「バッヂの状態は、まだ決まっていないよ」
 ときぐるみが言う。
「それは間違ったことなのかもしれないし、正しいことなのかもしれない。オレには判断がつかない」
 オレはベンチにうつむいて、ゆっくりと繰り返して呼吸した。
 そのとき。
 まだ握ったままだった、ソルのスマートフォンが、また震える。
 ――なぜ?
 もう電波はないはずだ。
 オレはメールを確認する。件名は、「制作者」となっていた。
 きぐるみは言った。
「結局さ、そいつのフィクションじゃ、足りてないんだよ」
 そいつ? ――制作者?
「フィクションって、どういうことだよ?」
「辞書で調べろよ」
「そんな話をしてるんじゃねぇよ」
「仕方ないだろ。あいつだって、なにもかも全部がわかってるわけじゃねぇんだから」
 きぐるみは相変わらずの笑顔のまま、首を傾げる。
「ともかくさ、あいつだけじゃできないから、ソルがいるんだよ」
 オレはメールを開く。

       ※

 水曜日のクリスマスには100の謎がある。
 90番目の謎は、ソルはなんのために存在しているのか、だ。
 91番目の謎は、ソルはなにを書き換えられるのか、だ。

――To be continued


8月18日(月) ← 3D小説「bell」 → 8月20日(水)
-------------------------------------------------------------------------------------------
スポンサーサイト



最終更新日 : 2015-07-30

Comment







非公開コメント