【報告書】作成者:ましろ

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2014-08-15 (Fri) 23:59

8月15日(金)

8月14日(木) ← 3D小説「bell」 → 8月16日(土)
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■久瀬太一/8月15日/20時

「暗い店ならどこでもいいよ」
 と八千代は言った。頬にはアザができていて、おそらくそれを気にしたのだろう。
 彼は頭を殴られていたため、昨日から今日にかけて病院で過ごした。幸い――と言っていいのかわからないが、検査の結果みつかったのは肋骨に入ったひびくらいで、入院の必要はないそうだ。
「じゃあ、今夜でいいんだな?」
 とオレは尋ねる。
「ああ。ほかにはタイミングがない」
 と八千代は頷いた。
 前々から、気になっていたことだ。
 八千代と宮野さんを引き合わせる約束をしていた。

       ※

「この度の取材は私ひとりが独断で行ったことです。行き過ぎた行為、誠に申し訳ありません。深くお詫び申し上げます」
 そう言って宮野さんは頭を下げた。
 まともなスーツを着ていると、彼女だって社会人にみえた。でもしゅんとした彼女の様子は、やはりどこか子供っぽくもあった。
 オレたちは照明の暗いレストラン&バーで向かい合っていた。宮野さんに泣きつかれたから、オレが探した店だ。テーブルには10品ものオードブルが少しずつ載った白い皿がおかれている。美味いことはわかるが、どれもひとくちサイズなので物足りない。
 ふむ、と唸り声をあげて、八千代は宮野さんが差し出した菓子折りを受け取る。包装紙には有名な洋菓子店の名前がある。
「ま、いいよ。女の子が部屋に訪ねてきたくらいで、叱りつけるわけにもいかない」
「いいのかよ」
 とオレはぼやく。普通に考えて犯罪だ。
 どちらかといえば宮野さんのフォローに回る心づもりではいたけれど、あんまりあっさりと許すと宮野さんの将来が心配だ。
 八千代は肩をすくめてみせた。
「あの部屋はちょっと特別でね。知らない誰かが訪ねてくることは、初めからわかっていた」
「そんな部屋に大事なものを置いていくなよ」
 八千代らしくない。彼は、警戒心が強い方だろう。
「正直、スマートフォンは失くなってもよかったんだ。迷惑電話が多くてね」
「ミュージックプレイヤーは?」
「忘れていた。単純に」
 嘘だろう、とオレは思う。
 理由はない。なんとなく、八千代らしくないなと感じただけだ。
 彼は軽く菓子折りをかかげて、言った。
「こいつはもらっておく。ディナーはごちそうになろう。とりあえずそれでいい」
 安心したように、宮野さんが笑う。
「本当ですか」
 八千代は頷く。
「盗んだものは、ちゃんと返してくれるんだろうね?」
 暗い店内でもわかる、明らかな愛想笑いを宮野さんは浮かべた。
「実はそれなんですが、私の上司? みたいな人から、ひとつ相談がありまして」
 八千代が苦笑を浮かべた。
「ずいぶん不明瞭な関係の方だね」
 宮野さんは相変わらず下手な愛想笑いのまま、頭をかいた。
「そうなんですよ。ええと、雪、という名前に心当たりはありますか?」
 雪、と八千代が、小さな言葉で反復する。それから、「友人にはいないな」と答えた。
 ほう、と呟いて、宮野さんは少しだけ身を乗り出した。
「名前を出せばおそらくわかる、と聞いていましたが?」
 興味をひかれて取材体勢に入ったようだった。時と場合を選んで欲しい。
 八千代は相変わらず笑っている。
「なら、わかることにしておこう。それで?」
「直接、お話したいとのことですが、大丈夫ですか?」
 八千代が驚いた風に、笑みを消した。
「ここにくるのかい? その、雪って人が」
「いえ。電話をかけるようにいわれています」
「この手の店に、電話は似合わない」
「では店を変えましょうか?」
「オードブルの途中で席を立つわけにもいかないよ」
 ま、いい。電話をかけてもらえるかな、と八千代は言った。
 彼は動揺している。最近はずっと一緒にいるせいか、それを感じ取れた。これまでになかったことだ。
 宮野さんがスマートフォンを取り出し、どこかに発信する。
 それから、ハンズフリーにして、テーブルの上に置いた。


■久瀬太一/8月15日/20時30分

 電波が悪いのか、少しだけ割れた、女性の声が聞える。
「こんばんは」
 とその声は言った。雪だろう。
 スマートフォンに向かって、八千代は語りかける。
「こんばんは。オレの他にもふたり聞いている。いいのかい?」
「こちらはかまわない」
「そう。じゃあ、続けて」
 八千代はテーブルの上のワインを手に取り、口をつける。宮野さんはじっと八千代の様子を観察していた。オレは、それでなにかがわかるわけでもないのに、スマートフォンをみつめた。
「あのミュージックプレイヤーは、まだ君の手元に返すべきではないと考えている」
 と雪は言った。
 平坦な、感情を読み取れない声だ。
「どうして?」
「どうしようもなく君は、いずれミュージックプレイヤーのボイスを聴くことになる。でもその時は『今』ではないと考えている。だから宮野さとみに依頼し、君の手元からあれを奪った」
 違和感があった。
 わけのわからない話の中にひとつ、わかりすい疑問が生まれた。
 ――まるで、八千代はまだミュージックプレイヤーの中身を知らないみたいじゃないか。
 それは、あり得ないことのように思えた。
 わずかに顔をしかめて、八千代は応える。
「どうして、あれを聴くべきじゃないんだろう?」
「理由は説明できない」
「こちらとしてはね、理由をきけなければ、話の進めようがない」
「私も詳しくは把握していない。でも、理由はミュージックプレイヤーを返せない事情と同じだろう」
 ふむ、と八千代は呟く。
「じゃあ一体、誰が詳しく把握しているのかな」
「彼は制作者と名乗っている」
 ――制作者。
 ユキと制作者は繋がっている。そのことはわかっていたが、やはりその名前が出ると驚く。
 ユキは続ける。
「もうしばらく、あのミュージックプレイヤーはこちらに預けて欲しい。時がくれば君の手元に戻るはずだ。それを許可してくれるなら、ひとつ情報を開示しよう。そう制作者は言っている」
 八千代は息を吐き出す。
「ふたつ質問がある。制作者ってのは、何者なのか。情報というのはなにに関することなのか。このふたつがわからなければ、交渉の余地はない」
 当たり前だ、とオレは思った。
 だが、雪は答える。
「そうでもない」 
「どうして?」
「君はあのミュージックプレイヤーを怖れている」
 八千代は短い時間、目を閉じて、また開く。
 ワインに口をつけて、それから言った。
「ま、いい。確かにあれは、今すぐ必要なものじゃない。いつか戻ってくるのなら、情報って奴をきこう」
「ありがとう」
 雪はゆっくりと、静かな、でもはっきりと聞こえる口調で告げる。
「本物の『良い子』は、ヨフカシだけが知っている」
「それで?」
「それだけだ」
 八千代がまた顔をしかめる。
 雪はふいに、ふっと息を吐き出すように人間味のある音で笑った。
「じゃあ、おやすみなさい」
 その言葉を最後に、通話が切れる。

       ※

「どういう意味だ?」
 とオレは尋ねる。
 いつになく真剣な表情で、「オレにもわからない」と八千代は答えた。
 彼は額に右手を当てる。
 オレはまた、テーブルの上のスマートフォンをみた。あまりに言葉が足りな過ぎるだろう、と感じていた。また雪の声が聞こえることを期待していたが、スマートフォンは宮野さんが回収してしまう。
「では、交渉はこれで終了ということで」
 彼女はかわりに、ボイスレコーダーをテーブルに置く。
「八千代さんは、スイマですね? ちょっとスイマの内情を暴露してみませんか?」
 もう少し空気を読んで取材を始めて欲しいものだ。


■久瀬太一/8月15日/22時

 宮野さんの激しい質問と、それをのらりくらりとかわす八千代の会話を聞き流しながら、そこそこ高級なコース料理をゆっくりと味わって食べた。取材の方に意識が向いていたからだろう、宮野さんも次の皿を催促したりはしなかった。
 帰り道、オレと八千代はタクシーの後部座席に並んで乗る。
「元気な子だね」
 と八千代は、どこか楽しげに告げる。
「今日は比較的ましだった」
 とオレは素直な感想を告げた。
 それから、確認事項をきり出す。
「ダザイとホールについては?」
 八千代を狙っていた可能性の高い、ふたりのスイマだ。
「ダザイは一昨日の一件にはっきりと関わっている。しばらくはこちらをどうこうする余裕はないみたいだ」
「そりゃよかった。ホールは?」
「そちらがまだわからない。上手く行方を追えていない」
「なんだ。あんたなら、すぐに調べられるのかと思っていたよ」
「おいおい。君のせいで、協会との繋がりがほとんどなくなったんだぜ」
 笑みを浮かべていた八千代は、それをふっと消して、続ける。
「気になることが、ひとつある」
「なんだ?」
「ニールも姿を消している」
 ニール。
「あいつがなにか、関係しているのか?」
「わからないよ。でもね、聖夜協会の中じゃあ、ホールは多少、ニールと繋がりがあったみたいだ」
「なるほど。名前が似ていると思っていたよ」
「それはただの偶然だ」
 オレは額に手を当てる。
 不安要素がまったくないわけではない。だが、さすがに焦りつつあった。8月24日まで、もう10日を切っている。
「そろそろ、本格的にヒーローバッヂを探した方がいいんじゃないか?」
 八千代が頷く。
「ああ。明日の朝、愛媛に向かおう」
 愛媛。オレが小学3年生のころ、暮らしていた場所だ。
 だが不思議と、タイムカプセルを埋めた記憶はない。現地でなにか思い出すだろうか?
「ホールについては、今夜もう少し調べてみるよ」
「ああ。期待している」
 オレにできることは、「思い出す」ことだけだ。タイムカプセルについて。そして、ヒーローバッヂについて。
 だがその記憶はみつからない。
 痺れるように、また顔の左半分が痛んだ。


【3D小説『bell』運営より】
・明日13時30分から、以下の生放送を開始いたします。みなさん、ふるってご視聴ください。
 (参加者の顔は基本的に映さないよう配慮いたします)
「だれかのタイムカプセルを掘り起こそう!」:http://live.nicovideo.jp/watch/lv188841477

■久瀬太一/8月15日/24時

 そしてオレは、夢の中の停留所にいた。
 静かな夜だ。虫の泣き声もきこえない。
 空を見上げると半月が浮かんでいる。そういえば、いつもこのバス停から見上げると半月がみえるように思う。
 当然のようにバスがやってきて、そのライトがオレを射す。
 オレは当然、そのバスに乗り込む。

       ※

「よう」
 ときぐるみが言った。
 オレはそいつの隣に腰を下ろす。
 きぐるみは首を傾げてみせる。
「元気そうじゃないか」
「どうかな。毎日、ひやひやしてるよ」
「この時点で、お前がぼろぼろになっているかもしれなかった」
「八千代の代わりに殴られて、か?」
 その可能性は、オレも考えていた。
 きぐるみはなにも答えない。当然、同じ表情で笑っているだけだ。
「スマートフォンも、戻ってきたよ」
「そりゃよかった」
「まったくだ」
 ゆっくりと、ゆっくりと、前進している。
 聖夜協会たちの追手を撒き、オレはもうすぐ愛媛へ行く。
 ヒーローバッヂに関しては、上手く思い出せなかった。それについて考えようとするたび、身体に激痛が走る。一体、どういうことだろう?
 ヒーローバッヂはタイムカプセルの中に入っているらしい。
 でも愛媛の山に、本当にそんなものが埋まっているのだろうか?
 あのころ仲のよかった3人組と、ある小さな山にそれを埋める約束をしていた。でもタイムカプセルを埋めた記憶はない。オレは以前から、記憶力が悪い。
 ――山は、覚えてる。
 友人の父親が、山に持っている土地。それほど広くもないはずだが、とはいえ手当たり次第に穴を掘って、タイムカプセルがみつかるほど狭くもない。
 ――オレは思い出さないといけないんだ。
 ヒーローバッヂのことを。その行方を。
 なのにきぐるみは言った。
「お前にあのバッヂはみつけられねぇよ」
「そんなのやってみなきゃわからないだろ」
「ま、気の済むようにすればいいさ」
 オレはため息をつく。
「お前、いったいなにを知っているんだよ?」
 きぐるみは相変わらず、不気味な笑顔を浮かべている。
「そのうちわかるさ。たぶんな」
 こいつは何者なんだ?
 ふと、思い当ったことを、オレは尋ねる。
「もしかして、お前が『制作者』か?」
 だがきぐるみは首を振った。
「違うよ。そうじゃない」
 そしてバスが、トンネルを抜ける。


★★★シロクロサーガ攻略本を媒体に久瀬との会話を開始。
★久瀬へ:1)この文章が見えていたら「見えている」と返事をしてほしい。
★久瀬へ:2)これ以降、今の君に尋ねたい事やバスの中で君を見ている君に伝える事が幾つかあるので
 左横の番号を添えて答えてくれ。文章が見えないものは「見えない」で構わない。
★久瀬へ:3)今このページを読んでいる久瀬くんの様子をバスの中の久瀬くんが見ている。
 次の質問ページから、彼にページの内容を伝えるために、文章を読み上げてほしい。
★久瀬へ:4)久瀬くんへの質問が書かれているページの前後どちらかの部屋は比較的安全なので、
 そこで落ち着いて読んで確認して欲しい。
【前】1-8 → 【後】1-8【検閲後】

■久瀬太一/8月15日/24時15分

 ――次は、8月16日です。
 と車内アナウンスが言った。
 よかった、という感情と、まずい、という感情が、同時に湧き上がる。
 明日のことは知りたいとは思っていた。
 でも窓の外にみえる景色は、大抵よいことじゃない。

       ※

 オレと八千代は、どこかホテルの一室にいるようだった。狭いビジネスホテルのシングルルームにみえた。
 オレは見覚えのない、ソフトスーツケースをひっくり返している。
 ――なんなんだよ?
 山の景色を、あわよくばタイムカプセルを掘り返した瞬間なんかを期待していたオレは、眉をひそめる。
 どうしてオレは、知らないホテルで知らないスーツケースをあさっているんだ。
「急げよ」
 と八千代が言う。
「事情はわからないが、あのメモの感じだと、あとから奪い返しても遅いかもしれない」
 そして、バスは再びトンネルに入り、オレンジ色のライトしかみえなくなった。

       ※

「短いよ」
 とオレは愚痴る。山はどこだ。
 きぐるみは隣で、呑気に笑う。
「でもま、なんにもわからないよりはいいだろ?」
 そうだろうか。半端に未来をみたせいで、余計、混乱したような気がした。
「オレたちは、山でタイムカプセルを掘る予定じゃなかったのかよ」
「知らないよ。ま、がんばってくれ。ところで――」
 きぐるみは窓の外を指す。
「次は長いかもしれないぜ?」
 さすがにもう、なにが起こるのかは、おおよそ予想がついた。

       ※

 ――次は青と紫の節、9番目の陰の日です。
 と、いつものわけがわからないアナウンスが流れた。
 オレはみさきやちえりによく似た少女――「サクラ」と共に、ファンタジーでめちゃくちゃな城の中を進んでいく。
 サービスなのかなんなのか、さすがにドラゴンに追いかけられるシーンではなかった。ずいぶん城の奥まで進んでいるのだろう。
 オレの姿は、そのまんま表現して悲惨だった。顔は憔悴しきっているし、あちこち傷だらけだし、おまけに鎧の一部が溶けたように変形していた。一方サクラは、作り物のように綺麗なままだ。
 オレたちがいるのは、荒れ果てた王座がある部屋だった。柱は折れ、床はめくれあがり、あちこちが焦げている。
 ――そろそろラストか?
 期待と不安の入り混じった心境で、窓の外の様子を見守る。――と。
 スマートフォンを覗いていたオレが、ふいに叫び声をあげる。
「1番、みえてるぞ!」
 なにが起こっているのかは、さすがに想像がついた。
「2番、わかった! 3番、わかった! 4番、そのへんはもう終わっていると思う。攻略本に書かれていることは、一通り終わらせた。疲れた」
 窓の向こうのオレは深呼吸して、それから言った。
「質問には上から順に答えていく。こっちは、『ピエロのなぞなぞ』と『ドッペルゲンガーの間』をなんとかしたいと思っている。中の様子を詳しく教えてくれると嬉しい!」
 ピエロ? ドッペルゲンガー?
 いまさら驚かないが、向こうのオレはなにをしているのだろう。


★久瀬へ:5)少年ロケットに「本物のいい子について何か知ってるか?」と聞いてほしい
★久瀬へ:6)少年ロケットに「ヨフカシはスイマの中にいる、と言ってたが、
 本当はプレゼントの壊れてしまったスイマがヨフカシと呼ばれているのではないか?」と聞いてみて下さい
★久瀬へ:7)リュミエールがいた場合、メリーからノイマンを経由してみさきにやらせた「40枚のイラスト」について、
 その意図を尋ねること。
★久瀬へ:8)きぐるみに「お前は俺か?」と聞いてみて。
【前】1-8 → 【後】1-8【検閲後】
★久瀬へ:9)ソルもヒーローバッヂを探すために愛媛へ行く。
 越智くんのお兄さんやソルと名乗る人物に合言葉を聞かれたら「ロケット」と答えてくれ。
 ソルは複数人で「君の友人」と名乗っている。
 「ストーカー対策」という理由で合言葉を決めたので、怪しい人には合言葉は教えないように!
 集合は8月16日12:30にドトールコーヒーショップ松山市駅前店の前。
★久瀬へ:10)愛媛の愛情100%を、
 八千代がソルのスマホで検索
 八千代が久瀬くんのスマホで検索
 八千代が八千代のスマホで検索
 久瀬くんが八千代のスマホで検索、の4通りを試してほしい。
【前】9-16 → 【後】9-16【検閲後】

■久瀬太一/8月15日/24時25分

「おいオレ、隣のきぐるみに、次の質問をしろ!ひとつめ、本物のいい子について何か知っているか? ふたつめ、『ヨフカシはスイマの中にいる』と言ってたが、本当はプレゼントの壊れてしまったスイマがヨフカシと呼ばれているのではないか?」
 オレはきぐるみに視線をむけて、尋ねる。
「だってよ」
 きぐるみは首をかしげてみせた。
「本物のいい子ってだれ?」
「オレにきかれてもわからないよ」
「そっか。まあ、ヨフカシとプレゼントは関係ない」
「ないのか?」
「ほとんどない」
「はっきりしろよ」
「はっきりは、オレもわからないんだよ。なんでオレへの質問タイムになってんの?」
 しるか。というか、この状況なら、そうなるだろう。
 窓の向こうのオレが叫ぶ。
「おい、オレ。そっちにリュミエールがいたら、『40枚のイラスト』でみさきにやらせたことの意図を尋ねろ!」
 会話にならないので、会話を交わしていないけれど、今日はリュミエールもグーテンベルクも乗っている。
 オレは、窓の向こうのオレの質問を、そのまま繰り返す。
 リュミエールは答えない。かわりに、隣のきぐるみが言った。
「あいつはそのへん真面目だから、なんにも教えてくれねぇよ」
「お前はなにか知らないのか?」
 ときぐるみに尋ねてみる。
「あれだろ? 普通には思い出せない思い出を、無理やり思い出させたんだろ?」
「どういうことだよ?」
「プレゼントってのはそういうもんなんだよ。仕方ないだろ」
「どう仕方ないんだよ」
「知らないよ。ややこしいんだよ、いろいろと」
 窓の外のオレが叫ぶ。
「8番はみつからない。9番と10番は、両方読めない!」
 それからまた、大きく息をついた。


★久瀬へ:11)ソルが彼と接触を図るため、(1)君の友人の山本さんの名を借りた(騙った)
 (2)君の記憶を探す手伝いをしてる知人、という設定で話していて、君もそれをしている設定にさせてもらっている。
 何か訊かれたら、うまくお兄さんに口裏を合わせてほしい。
★久瀬へ:12)このドラゴンがいるところは
 ノイマンのプレゼント、ノイマンの世界という力によって作られているようです。
 ノイマンと接触すると、プレゼントの力でこのゲームのような世界に飛ばされるので、会った際は十分に警戒して
★久瀬へ:13)小3のときに君が友達と一緒にタイムカプセルを埋めた場所は、越智家の私有地。
 愛媛県伊予分砥部町の山の中で、スーパーTANAKAの近所らしい。何か思い出せることはありませんか?
★久瀬へ:14)サクラさんに「青と紫の節、黄と緑の節とか、光の日、陰の日とあるけど、これは日付けなのか?
 他にも節の種類や日の種類があるのか」と聞いてください
★久瀬へ:15)いったい何がどうなってその世界にいるのかわかるなら教えてほしい。
 地下でドラゴンに襲われるより前、誰と会っていたとか、何を目的に行動していたとか、どんな会話をしていたとか。
【前】9-16 → 【後】9-16【検閲後】

■久瀬太一/8月15日/24時40分

「11番、12番、両方読めない。13番、おいオレ、越智の山は覚えているな?」
 覚えている。そこまでは辿りつけると思う。
 窓の向こうのオレは、より詳しい情報を叫ぶ。なんだか妙に記憶に残っている、なつかしいスーパーの名前で、少し笑う。
「なにか思い出すことはないか? と言っている」
 当時のことは、いくつか思い出せるが、残念ながらタイムカプセルに関する記憶はない。
 窓の向こうのオレは、隣のサクラと、なにか話している。
 それからこちらに向かって、
「14番、日づけで間違いないみたいだ! 15番は読めない!」
 とオレは叫んだ。
 それから、窓の向こうのオレは、しばらくスマートフォンを読みふけって、また叫ぶ。
「ピエロの部屋に入ってみる!」
 そこまで叫ばなくても聞えるよ、と誰か彼に教えてあげて欲しい。

       ※

 そして窓の向こうのオレは、王座に向かって左手の部屋に入る。
 そこには、たしかにピエロがいた。ずいぶん巨大なピエロだ。ドアの前を、その身体で防いでいる。
「テッテレー!」
 とそのピエロは、妙に甲高い、むかつく声で言った。
「やあ、ボクはなぞなぞピエロ! 3問のなぞなぞに正解できたらここを通してあげるよ! 挑戦する?」
 窓の向こうのオレは半歩ほど後ずさって、それから頷いた。
「よしきた! では第1問。じゃじゃん! 1日に2回あるのに1年に1回しかないもの、な~んだ?」
 なんだそれ。意味がわからない。
 だが窓の向こうのオレは、スマートフォンを覗き込んで、平然と答えた。
「ち」
 ち?
「わお、正解!」
 毎度、リアクションがむかつくピエロだ。
 いちにち、いちねん。なるほど、ち、か。
「では、すかさず2問目! ボクの好きな果物はな~んだ?」
 わかるわけがない、と思ったが、オレは答える。
「メロン」
 きっとソルたちが教えてくれているのだろうが、本当にどうでもいい問題だなと思った。フェアでもエレガントでもない。
「なんと、正解! メロンの皮って迷路っぽくて楽しいよね」
「しるか」
 とようやくオレが、問題の答え以外のことを口にする。
「そんなことより、いよいよ3問目! ボクは嘘つきです。さて、ボクは嘘つきですか?」
 窓の向こうのオレは、少し顔をしかめた。
「嘘つきなんだろ?」
「ざんねん! ここは通せませ~ん!」
 虚空にむかって、
「こんな感じみたいだ」
 とオレは呟いた。

弦楽器をかきならす


★久瀬へ:17)プレゼントを貰うと記憶が欠落する可能性があるようだ。
 八千代もミュージックプレイヤーの件では記憶が欠落しているように思えるので、
 八千代にそのあたりの話を突っ込んで聞いてみてもらいたい。
★久瀬へ:18)バスの中の久瀬くんに自主的に伝えたい事があれば喋ってほしい。
★久瀬へ:19)みさきが「脚本を書く」ということに関して何か知っている事はあるか。
★久瀬へ:20)ちえりと会った時の容姿を詳細に思い出してほしい。昔あった時と最近会った時の両方。
★久瀬へ:45)ピエロは3問目が攻略出来ていない、部屋に入るとすぐピエロが立っていて問題を出してくる。
 1問目は「ち」、2問目は「メロン(理由不明)」、 3問目パラドックス問題だが、
 答えず突き飛ばすとか「それまでの答えに正解と言っているから嘘つきではなく気まぐれ者」とかだと思っているが
 こちらではその選択肢が取れない。
【前】17-24 → 【後】17-24【検閲後】
【前】25-32 【前】33-40 【前】41-48
      ↓             ↓             ↓
【後】25-32 【後】33-40 【後】41-48【検閲後】

■久瀬太一/8月15日/25時

 どうやらオレは、またソルたちへの返答を再会したようだ。重要なことだ。
「オレ、プレゼントを貰うと記憶が欠落する可能性があるようだ。八千代もミュージックプレイヤーの件では記憶が欠落しているように思えるので、その辺りの話を突っ込んできいてみてもらいたい、だそうだ」
 プレゼントと、記憶は関係しているのか?
「わかった!」
 とついオレは叫び返す。
 とはいえ八千代は、いくらでも雑談にはのってくるくせに、喋るつもりのないことは本当に喋らない。困ったものだ。
「18番、読めない。19番。みさきは脚本を書いているのか。昔から、物語が好きな子だったよ。たぶんピアノよりも本当は、そういうひとりで考えることの方が好きなんじゃないかな。20番、おいオレ、ちえりの容姿を思い出せ」
 ちえり?
 彼女は、みさきによく似ている。パーツをとって考えると、どこも違っていないような気がする。――ああ、少なくとも8月24日のみさきよりは、ちえりの方が髪が長い。あとは、ほとんど同じだ。でもなんとなく雰囲気が違う。
 どちらかというと、ちえりの方が大人びている。――いや、これも正確ではない。ちえりにはなんだか、大人びた子供のような、そんな不思議な雰囲気がある。
 窓の向こうのオレは、しばらくスマートフォンを眺めて、それから言う。
「ちょっと飛ぶが、45番。わかった、やってみる」
 そしてオレは、またピエロの部屋へと入っていく。

       ※

「テッテレー!」
 とピエロがまた、問題を出し始める。先ほどと同じ問題を、律儀に最初から。オレもそれに付き合って、律儀に答える。
 そして、
「いよいよ3問目! ボクは嘘つきです。さて、ボクは嘘つきですか?」
 あの問題が出た。
 きっと答えのない、矛盾した問題。
 窓の向こうのオレは、なにもいわずにピエロに手を伸ばす。
 そして、その肩を、ついた。とたん、
「うわあっと!」
 わざとらしい大声を上げて、ピエロが自分から吹き飛ぶ。床をごろごろと転がって、頭を下にした状態で止まった。
「痛いな、もう!」
 と満面の笑みでピエロは言う。
 ――心底、むかつく奴だ。
 同じように感じたのだろう、窓の向こうのオレはいう。
「お前は嘘つきでも正直者でもないよ。ただ気まぐれなだけだろ」
 そして、部屋の中へと踏み込んで言った。

ピエロ:【ピエロ攻略のヒント?】


■久瀬太一/8月15日/25時10分

 その部屋の奥には、なにかギターとは少し違う、見慣れない弦楽器をきかならす男がいた。
 彼は綺麗な声で言う。
「ようこそ、お客様。あの騒々しいピエロと同室で、ずいぶん疲れてしまいましたよ。その苦労があなたにならおわかりになるでしょう?」
 オレは頷く。
「あんたは?」
「名乗るほどでもない、吟遊詩人です。どうでしょう、客人。リフレッシュに、私の歌でもきいていきませんか?」
「なにを歌ってくれるんだ?」
「かつて異世界から現れた勇者、彼がまだこの世界の外側にいたころのサーガですよ」
 よくわからない。
 オレもよくわかっていなかったのだろう。なんだか警戒したような口調で、「頼む」と言った。
 吟遊詩人は、頷いて歌い出す。
 内容はめちゃくちゃだ。でもその声は、意外なことに、美しかった。

       ※

偉大なる勇者 立ち向かう
強く誘う 休息に
再び落ちる ぬくもりに
ああ勇者は偉大なり 偉大なり

偉大なる勇者 その朝知る
友との別れ 恩師との離別
しかし勇者はそれも定めと前を向く
ああ勇者は偉大なり 偉大なり

偉大なる勇者 新たな世界の扉を開く
見知らぬ顔 見知った顔
されど勇者は全てを誘う
ああ勇者は偉大なり 偉大なり

偉大なる勇者 広場に集う
刹那に消え行く 美しきもの
刹那に消え行く 美味しきもの
ああ勇者は偉大なり 偉大なり

そう 勇者は 世界を正す
清き子供たちに良き眠りが訪れることを願って


偉大なる勇者 暗き森へ進む
甘き水に集う 森の守り人たち
勇者と森の守り人 知略をかけた戦い
ああ勇者は偉大なり 偉大なり

偉大なる勇者 友の集いに向かう
暁の日差しの中 友と共に向かう
そこで集めし印 それは集いの証
ああ勇者は偉大なり 偉大なり

偉大なる勇者 水の世界へと向かう
数多の冒険者集う 流れる水の世界
冒険者の間かい潜り 世界の果てへと至る
ああ勇者は偉大なり 偉大なり

偉大なる勇者 夜の花を目指す
闇に蠢く人々 交差する思惑
残された子の手を取り 共に秘密の場へ
ああ勇者は偉大なり 偉大なり

そう 勇者は 世界を正す
清き子供たちに良き眠りが訪れることを願って


偉大なる勇者 夜明けを待たず目覚める
深淵からの箱 与えられるを知る
恐れず勇者 其の箱を開く
ああ勇者は偉大なり 偉大なり

偉大なる勇者 箱より希望を得る
希望を手にし 白き世界を駆ける
喜びとともに 勇者は駆ける
ああ勇者は偉大なり 偉大なり

偉大なる勇者 人の行き交う道にて聴く
天の声は歌う その偉大なる力により
歴史に名を残すと 讃えられしもの
ああ勇者は偉大なり 偉大なり

偉大なる勇者 純真なる心に刻む
自らの輝きで道を 照らす姿を
苦難に挫けず前を 向き続ける心を
ああ勇者は偉大なり 偉大なり

そう 勇者は 世界を正す
清き子供たちに良き眠りが訪れることを願って

       ※

 いや、さすがに長すぎるだろ、とオレは思った。
 少し眠い。

弦楽器をかきならす


■久瀬太一/8月15日/25時15分

「ピエロの方は、これでいいのか?」
 どこか自身なさげに、オレは言う。
「でもドッペルゲンガーの方は、なんだかやばそうだな」
 どうやばいのか、オレにもわかるように言って欲しかった。窓の向こうのオレは気遣いが足りない。
 そう思ってると、オレは言った。
「とにかく部屋の入口に、鏡がある。そこからドッペルゲンガーが出てきて、ぴったりとオレの後ろをつけてくる。ドッペルに触れると死ぬ。目が合っても死ぬ。ええと、このマップにある、白い粉をドッペルにかけると倒せる、でいいんだな?」
 このマップってなんだよ。
「ちょっとサクラと相談してみる。いいアイデアがあったら教えてくれると助かる!」
 と、オレは言った。


■久瀬太一/8月15日/25時40分

「なるほど」
 と、窓の向こうのオレは言った。
「もう一体、ドッペルがでる可能性があるなら、サクラをつれていくわけにもいかないか」
 それに、みさきとちえりによく似た少女――サクラが答える。
「いえ。私は、お姉さまを捜すのは、私の目的ですから。すべてお任せするわけにはいきません」
「でも危ないらしいぜ?」
「要するに、後ろを振り返らずに、お互いの背後にいるドッペルゲンガーに粉を振りかければいいんでしょう?」
 窓の向こうのオレとサクラは、しばらく議論していたが、それで話がまとまったようだった。

       ※

 まずはオレが、部屋に入る。
 沢山の衣装や化粧品の置かれた部屋だ。確かに、入り口のすぐ脇に、鏡がある。
 オレはゆっくりとそれに近づき、鏡に映らないよう、慎重に屈み込む。
 そのまま、懐からなにか、首飾りのようなもを取り出した。
 ――なるほど。映らないように、鏡を割るつもりか。
 屈み込んだまま、オレはチェーンの部分を握り、ふっと首飾りを振る。
 だが、その首飾りは鏡の表面でかん、と軽い音をたてただけだった。
「クゼさん、出てます!」
 と扉の前から部屋を覗き込んでいたサクラが言った。
 腕が映ったのか、それとも持ち物が映るだけでもアウトなのか、オレの後ろにも、もうひとりのオレがいた。
 ――ドッペルゲンガー。
 それがなんなのか、ぼんやりとは知っていた。自分とまったく同じ姿の、魔物かなにかで、出会うと近々死ぬといわれている。
 緊迫した状況なのだろうが、自分がふたり並んで、情けない姿勢で鏡の前にしゃがみ込んでいるのは、どちらかとえば間が抜けてみえた。
 何かの気配を感じたのだろう、オレは背後を振り返ろうとしたようだったが、すぐに思い留まる。
 そっとオレは立ち上がり、ゆっくりと部屋の奥へと進んでいく。
「2番目の作戦ですね!」
 そしてサクラが、部屋に入る。
 彼女も鏡の前を通った。
 ――だが。
 なにも、おこらない?
 サクラはひとりだけだ。彼女は声を上げる。
「クゼさん! たぶん、大丈夫です! 私にはドッペルゲンガーは出てきません」
 気にしすぎだったか。ドッペルゲンガーは1体しかでないのか、それともサクラがなにか特別なのか。
「よし」
 と安心した風に、オレは言った。

       ※

 オレが壁際でじっとしていれば、サクラは自由に部屋の中を動き回れるようだった。
「えい」
 と掛け声をかけて、サクラがドッペルゲンガーに白い粉を振りかける。
 直後、なにか巨大な管楽器のような、重たい音の悲鳴をドッペルゲンガーが上げる。
 ――粉は効いたようだ。
 ドッペルゲンガーの姿が霞み、掻き消えた。
 その直後、今度は小さな、高い音がきこえた。
 部屋の入口にあった鏡が割れている。
 そのガラスの中に、紙片が1枚、落ちているのがみえた。

ドッペル


■久瀬太一/8月15日/25時45分

 傍からみていると、なんだか間抜けなシーンだったが、本人は緊迫していたのだろう。
 ふう、と達成感のある表情で額の汗を拭う。
 そして、割れた鏡の中に落ちていた紙片を拾い上げだ。
 また、長い文章が並んでいる。


       ※

【無色の日】
其は、全ての始まりの日
全ての元凶

【白と灰色の節、初めの力の日】
終わりを告げる鐘の音が響く

【白と灰色の節、初めの奈落の日】
人は願う
愛を、金を
人は祈る
平穏を、安寧を、成功を
神の社に長き列
飛び交う金の礫、灰の札

【白と灰色の節、8番目の光の日】
聖者の名を冠する日の前夜
生命を産み出す力を持つ者、黒き神器完成の時
熱く煮えたぎる黒き素体、生命を形どり冷たき箱へ封印する
これこそ黒き神器完成の最後の呪法

【白と灰色の節、8番目の陰の日】
黒き神器の力、現れる
その力、対なる者の魂を捉える
神器には真なるものと、偽なるものあり
真の神器に囚われし者、新たな世界へ誘われる
偽の神器に囚われし者、仮初の世界へ誘われる
神器なき者、その者は幸せか……

【白と灰色の節、12番目の陰の日】
黒き神器に対向しうる唯一の日
3倍の力を持ってすれば、黒き神器の力に拮抗しうる

【黄と緑の節、初めの力の日】
日が天の頂に登りし時まで、世界は偽りに包まれる
多くの網際網路の上で、偽りの告知あり
人は皆、これを楽しむ

【青と紫の節、2番目の生命の日】
2つの星の力、合わされし時
民は皆、願う
その願い、長き札に込め、白黒の獣の餌に合わせる

【青と紫の節、10番目の慈愛の日】
其は、多くの子供達の終わりの日
最後の自由、解放の終わり
子供たちの祈り、32を望むも、叶うことなし
青と紫の節、10番目の生命の日が絶望とともに訪れる

【赤と薄紅の節、8番目の意志の日】
髪袴帯の儀、執り行う
紅き棒、白き棒、その身に取り込み、永き生命を得んとす


■久瀬太一/8月15日/25時55分

 一瞬、視界が途絶えて、次にみえた景色は先ほどまでと少しだけ違っていた。
 オレはどこか、狭苦しい場所がいた。ちろちろと水の音が聞える、暗く、湿った場所だ。
 窓の向こうのオレが、ふっと頭上をみあげる。
 そして、ぼそりと呟いた。
「しろとくろをみわけよ?」
 なんだ、それ。
「これは、ややこしい暗号じゃないみたいだ」
 とオレがぼやく。
 その直後、目の前をオレンジ色のライトが流れ始め、ようやくまたトンネルに入ったのだとわかった。

しろとくろをみわけよ1 しろとくろをみわけよ2 → しろとくろをみわけよ3 V1更新


■久瀬太一/8月15日/26時

「順調に進んでるみたいだな」

 ときぐるみが言う。

 オレは、暑いわけでもないのに額にかいていた汗を拭って、息を吐き出した。

「なにが起こってるんだよ、一体」

「オレは知らないよ。ま、そのうちわかるだろ」

 こっちは命懸けだってのに、気安く言ってくれる。

「なんにせよ、まずは明日のことだろ」

 ときぐるみが言う。

 その通りだ。

 ――事情はわからないが、あのメモの感じだと、あとから奪い返しても遅いかもしれない。

 そう、八千代は言っていた。

 向こう、というのは、きっとスイマだろう。ホール? あるいは、ニールか、まったく別の誰かか。

 なんにせよスイマも、ヒーローバッヂを狙っているのだろう。奪われ、奪い返すものがあるとすれば、それはヒーローバッヂしか思い当らない。

「ヒーローバッヂってなんなんだよ」

 とオレはぼやく。

 その直後、バスがトンネルを抜けた。

 ――次は終点、8月24日です。

 みさきが血を流す。何度見ても、胸がきりきりと痛む光景だ。

 その中で、

「結局さ、あのバッヂが『どうなってるのか』が問題なんだよ」

 と、ぼそりと、きぐるみが言った。

――To be continued


★★★シロクロサーガ更新【v1.0】:http://neumann.2-d.jp/sksaga/CIfyeLbd/
【愛媛の愛情100%】8/15「弟のタイムカプセルの件で、愛媛に来られるみなさまへ」:
http://ponthe1.hatenablog.com/entry/2014/08/15/124325

・待ち合わせ日時、場所、越智総一郎の特徴、当日の注意事項


★★★シロクロサーガにて使用されている暦(シロクロ暦)が判明、日付が確定。
シロクロ暦早見表 【シロクロ暦早見表】
★★★【BAD FLAG-?? 非現実】青と紫の節、9番目の陰の日(8/22)

★★★ちえりの部屋(右)

8月15日/25時45分割れた鏡の中に落ちていた紙片」より
「黄と緑の節、2番目の力の日のイベントを答えよ」:「ゆうしゃのたんじょう」「えいゆうのたんじょう」

ちえり部屋-ゆうしゃのたんじょう


★★★【黒い日記】黄と緑の節、最後の奈落の日(6/25)

お父様とお母様の気がたっている
魔物の動きがさわがしいとかそんな理由
ぜんぶミサキのせいだ

あれのせいで私は
こんな檻みたいに狭い部屋に入れられる

はやく抜け出したい

「あの人」を連れ去りたい

1【黒】黄と緑の節 最後の奈落の日


【黒い日記】青と紫の節、4番目の光の日(7/17)

今日も狭い檻の中
けど大丈夫

きっと「あの人」が迎えにきてくれる
絶対に「あの人」が迎えにきてくれる
「あの人」に会いたいなあ
「あの人」に会いたいなあ

あれには絶対、わたさない

2【黒】青と紫の節 4番目の光の日


【黒い日記】青と紫の節、5番目の陰の日(7/25)

魔物の襲撃の噂をきいた

ふふふ
ふふふふふふふふ

悪いのはミサキよ
あの子はこの城にいるんだから
外を警戒しても仕方がないのに

でも大丈夫よ
私が内側からミサキを守るこの城を
壊してあげる

この城ももう終わり
私と「あの人」を阻むものはもうない

クゼさんに会いたい

(繰り返し)

3【黒】青と紫の節 5番目の陰の日1 3【黒】青と紫の節 5番目の陰の日2 3【黒】青と紫の節 5番目の陰の日3 3【黒】青と紫の節 5番目の陰の日4

- 以降は光の当たる場所にて判明した追記部分 -

私はここに破壊を記す
神も悪魔も変わりなく 灰となって消えますように

新【黒】青と紫の節 5番目の陰の日4

※【魔法の原理】なお、呪文を記すさいには、魔力のこもった特殊なインクを使う必要がある。
このインクは闇の中では不可視化され、光に当たると輝いて浮かび上がる性質を持つ。


★★★みさきの部屋(左)

8月15日/25時10分吟遊詩人の歌」より
「無色の日、勇者が憧れしものの名を答えよ」:ルドルフ

みさき部屋-ルドルフ


★★★【白い日記】黄と緑の節、最後の奈落の日(6/25)

最近、お父様とお母様がはたらきづめのようで、心配です。
魔物の動きが活発化して、その対応に追われているみたい。

私にできることはないか尋ねても
「心配ない。大人しくしていなさい。聖なる子は英雄クゼが
 守ってくれる」
と言われてしまうだけです。

クゼさんは今、どこにいらっしゃるんでしょう?

以前は毎年、お城でひらかれるパーティで
クゼさんにお会いできていたけれど
もう長いあいだお顔を見ていません。

あの方にご加護がありますように。

1黄と緑の節 最後の奈落の日


【白い日記】青と紫の節、4番目の光の日(7/17)

昨夜は門番さんが魔物におそわれて
怪我をしてしまったそうです。

私はこの部屋で守られていますが、
なにもできることがなくてもどかしいです。

チエリはここでの生活に、ずいぶん疲れているようです。
そのことが心配です。

クゼさんが来てくれれば、と考えることもありますが、
彼が魔物と戦う姿も、みたくはありません。

私に、偉大な賢者の血が流れているのなら、
もっとできることがないのでしょうか。

2青と紫の節 4番目の光の日


【白い日記】青と紫の節、5番目の陰の日(7/25)

魔物のことで、国中が不安にかられています。
こういうときに私は無力で、とてもはがゆいです。

クゼさん、なんだか私は今、
あなたが近くまできてくださっているのを感じます。

いろいろなことが手遅れになる前に、会いたいです。
でもなにより、クゼさんが健やかでありつづけますように。

3青と紫の節 5番目の陰の日

- 以降は光の当たる場所にて判明した追記部分 -

私はここに祈りを記します
あらゆる厄災を防ぐ盾となりますように

【新】青と紫の節 5番目の陰の日

※【魔法の原理】なお、呪文を記すさいには、魔力のこもった特殊なインクを使う必要がある。
このインクは闇の中では不可視化され、光に当たると輝いて浮かび上がる性質を持つ。


8月14日(木) ← 3D小説「bell」 → 8月16日(土)
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最終更新日 : 2015-07-30

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