【報告書】作成者:ましろ

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2014-08-13 (Wed) 23:59

8月13日(水)

8月12日(火) ← 3D小説「bell」 → 8月14日(木)

――水曜日のクリスマスには100の謎がある。

【再】58番目の謎は、彼らの世界は「いつ」なのか、だ。

★スマホを所持しているレオンへ:念のため確認だが、
 出題するのは2014年の8月13日水曜日で間違いないだろうか。また時刻も確認しておきたい。 ※8/12


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【3D小説『bell』運営より】
・本日21時から、以下の生放送を開始いたします。みなさん、ふるってご視聴ください。
「1問10分! ユーザーが作った問題を運営が本気で解く放送!」:http://live.nicovideo.jp/watch/lv189581570

■久瀬太一/8月13日/20時30分

 安いビジネスホテルの、申し訳程度のロビーにある、小さなソファーに座っていた。新聞があったからそれを手に取ったけれど、あまり文字を追う気にもなれなくて、すぐに元に戻した。
 ファーブルが現れたのは、20時30分ちょうどだった。彼は他に、ふたりの男を連れていた。ファーブル自身はピンク色のポロシャツを着ていた。両側のふたりはスーツ姿だ。
「お部屋までお迎えにあがるつもりでしたが」
 とファーブルは言った。
 でもオレだって、できれば部屋をノックする相手くらいは選びたい。
 オレはソファーから立ち上がる。
「行こう」
「はい。外に車を待たせております」
「遠いのか?」
「すぐに着きます」
 ファーブルは周囲を見渡す。
「ドイルさんは、ご不在ですか?」
「連れていってもいいのか?」
「あいにく、ご用意しているのは貴方の席だけです」
 八千代とは一通り、今夜の展開について打ち合わせしていた。いくつかのチェックポイントで、相手の思惑を推し量る予定だ。ひとつ目のポイントはもう終わっていた。
 ――ファーブル本人が迎えに現れるのか?
 ファーブルはそれなりに、こちらを警戒しているはずだ。たとえば背後からいきなり、八千代が彼を羽交い絞めにするようなことがあっても不思議じゃない。実際、やり方のひとつとしては検討した。
 ――それでもファーブル自身がやってくるなら、あいつはそれを「君の友達」との交渉のカードにするつもりだ。
 と八千代は言った。
 勝負前に、こちらから手を出せば、それを理由に「ルール違反だ」と騒いで状況を有利にする。
 ――反対に、少なくともファーブルの方からは、今日の勝負を壊すつもりはないってことだ。君を攫ってぼこすか殴りつけて、痣だらけにしてから交渉することだってできる。その場合、ファーブルよりも先に強硬派が現れる。
 少なくとも表面上、ファーブルはソルに対し、フェアに接しようとしている。事前のごたごたで勝負を台無しにするつもりはない。 
 オレがホテルを出ると、前に停まっていた車のドアをファーブル自身が開けた。
「どうぞ」
 と彼は言う。
 オレはそこに乗り込む。座席の柔らかな、充分に高級な車が、静かに走り出す。
「ああ、そうだ」
 ファーブルが口を開いた。
「ソルさんから貴方への出題を、そろそろお伝えいたしましょう」
 わざわざ暗記したのか、ファーブルは読み上げるように言う。
 ――君への謎だ。せっかくのゲームの場で船を漕いでいてはせっかくの雰囲気も台無しであろう。苦い飲み物でも片手に、しっかり目を覚ましてゲームを見届けてもらいたい。また、頭の疲労には糖分が効く。すぐに口に運べる宝玉の菓子が手軽で手を汚すこともないだろう。さて、君は一体何を持ってくる?
 なるほど、とオレは思う。
 ソルはこのタイミングで、八千代が襲われることを警戒していた。おそらく。それはオレも、八千代も同意見だった。
「まったくわからないな」
 とオレは答えた。
「私もですよ。おそらくこの問題は、フェアではありません。こじつければ色々な答えがありそうだ。今日のゲームでは、この手の問題は出題されないはずです」
「どうしてわかる?」
「ソルさんが約束してくださいました。フェアでエレガントな問題を出す、と」
 笑うファーブルに、オレは尋ねる。
「ソルが何者だか、知っているのか?」
 ファーブルは首を振る。
「いえ。そういった無粋な質問は、ゲームの後にしますよ」
 ――ゲームの壊し方は簡単だ。
 たとえばソルがヨフカシだと嘘をつけばいい。いや、ヨフカシの正体はまだわからないから、本当にソルがヨフカシなのかもしれないけれど。
 立場上、ファーブルはヨフカシ――スイマたちの裏切り者と仲良くすることはできない。まともな取り引きもできないはずだ。
 それをわかっているから、ファーブルもソルに対して、つっこんだ質問ができない。少なくとも勝負の結果の取り引きを真っ当に終えるまでは、ファーブルはソルを「知らない誰か」にしておきたいのだ。
 ――いちいち、面倒な奴だ。
 でもオレも今のところ、ソルとファーブルの勝負に横やりを入れるつもりはない。純粋に、その結果が楽しみだった。


★★★ファーブルと謎解き対決/生放送「1問10分! ユーザーが作った問題を運営が本気で解く放送!」開始。
http://live.nicovideo.jp/watch/lv189581570
・【誰かからのメール】そろそろお時間ですね。それではソルさん、本日はよろしくお願いいたします。
★スマホを所持しているレオンへ:時間通りだね.よろしくお願いする
 →【誰かからのメール】こちらこそよろしくお願いいたします。では、1問目をよろしくお願いします。
★★★【問題1】

次の詩は「貴方にプレゼント」という題名である.

 ノイマンと呼ばれたのはいつからだっただろうか
 大袈裟なノイマンの名は苦痛でもあった
 私にはノイマンではない真の名前があるというのに
 それでもファーブルが追い続ける謎の答えは見つからない
 謎の名前はメリー。迷える羊を統べるプレゼントの女
 あのかわいそうなニールに絶望の軛を引かせる謎
 ああニール、あなたは今どうしているの
 これほどまでに苦しいなら私は昔のままでよかったとさえ思っている
 これがセンセイの望みだとはとても思えないから

次の詩の題名を答えよ.

 ニールの過ぎたる力は彼を幸せにせしか
 ファーブルはそれを持たぬことを寿ぐべき
 すべてを知るはメリーのみ
 メリーとはいったい何者なるや
 本当にセンセイの代弁者なるや
 ノイマンはそれを信じているだろうか
 今メリーはどんな世界を描かんとするや
 抗いつづけるノイマンにも誰にも答えは見えじ


・【誰かからのメール】Give Upです。解答をください。

■久瀬太一/8月13日/21時23分

 オレはひとり掛けにしては大きな、黒いソファーと、サイドテーブルがあるだけのがらんとした部屋に入れられていた。
 壁にはひとつ窓があり、そこから隣の部屋の様子がみえる。ファーブルがソルから送られてきた謎を解いている部屋だ。
 オレは窓ガラス越しにその様子をみていた。
 ――あんまり近くで騒がれて、集中力を欠いてもゲームを楽しめませんからね。これくらいの距離がいい。
 とファーブルは言った。
 部屋の様子はよくみえた。赤いペンを持っているファーブル。だが紙面は、よく確認できない。少しずつ、左手が苛立たしげに動き始めるのはわかるのだが。
 やがて、ファーブルは頭を抱えた。
 部屋の時計をみて、よし、と思わずガッツポーズをする。
 どうやら1問目は、ソルの勝ちのようだ。
「なにか飲み物をご用意しましょうか?」
 と同室にいる、スーツの男が言った。
 なんだか妙に、緊張する。
 手の汗をぬぐって、
「あったらグレープジュースをくれ」
 とオレは答えた。
 ――あと2問。
 今のところ、ファーブルに怪しげな素振りはない。


★★★【解答1】正解は「えいゆうとあくま(英雄と悪魔)」.

まず大前提として,与えられた文の各行はかな1文字に対応する.
人物名が母音を,名前の頭文字が文の頭から何番目にあるかが子音を表す.
例文1行目は文の頭から1番目にノイマンの"ノ"がある為,「あ段,母音アの文字=あ」

また人物名の後ろに読点(、)がある場合は濁点を,句点(。)がある場合は半濁点をその文字に付す.
例文5行目は文の頭から6番目にメリーの"メ"があり,名前の後ろに読点が付いている為,
「は段,母音ウ,半濁点付きの文字=ぷ」

人物名と母音との対応は以下の通りである.
ノイマン=ア
ファーブル=イ
メリー=ウ
ニール=エ
センセイ=オ

なお,人物名が無い行は「ん」とする.


★スマホを所持しているレオンへ:解答は【英雄と悪魔】である.
 人物名が母音,その人物がテキスト中に出てくる位置(前から何文字目か)が子音を表す.
 あ行なら1文字目だ.ちなみに句点は半濁点,読点は濁点.人名なしは「ん」だ.
 →【誰かからのメール】なるほど、名前と母音の一致には気づける状態でした。句読点の使い方も納得です。
 手応えのある問題ですね、素晴らしい。
・【誰かからのメール】では、2つめの問題を送ってください。
★★★問題2 【問題2】
・【誰かからのメール】問題2の答えは、ARTです。いかがですか?
 →★スマホを所持しているレオンへ:2問目は正解.おめでとうを言わせていただく.
★★★解答2 【解答2】

■久瀬太一/8月13日/21時45分

 ファーブルが拳を高くつき上げる。
 ――とけた、のか?
 思わず舌打ちする。
 これで、1勝1負か。
 ファーブルは優雅な声で、
「なんでもよいので、チョコレートのお菓子をください」
 と言った。
 いよいよ、3問目が始まる。
 問題文がわからないまま、
 ――どっちが勝つんだ?
 とオレは、拳を握りしめていた。


・【誰かからのメール】これは実にエレガントな問題でした。
 【繋がる】ことの示唆、数字がアルファベットを指すための【26】も確かに書かれていますし、
 一度答えが出ても終わりでは無いことが赤文字で示されているのもフェアですね。素晴らしい。
・【誰かからのメール】では、最後の問題をお願いいたします。
★★★【問題3】太陽より始まる物語

-第1章-
春のはじまり

-第2章-
あの晩の海に映っていたのは
満月と星の燃える様……

-第3章-
時の城に無いのに有るもの。
それは□だ。……

□に当てはまるものは何か。次の中から選べ。
壁 床 柱 門 塀 鍵 窓


・【誰かからのメール】問題3の答えは、鍵です。いかがですか?
 →★スマホを所持しているレオンへ:残念だが,その答えは正しくない.回答は次のメールで通知する
★★★【解答3】正解は「柱」

太陽から始まる→日曜から始まった1週間のこと。
これにならって1週間をそれぞれ数字に当てはめると、
日=1、月=2、火=3、水=4、木=5、金=6、土=7
となる。

また、各章から平仮名を抜くと、
第1章

第2章
晩 海 映 満 月 星 燃 様 ……
第3章
時 城 無 有 。 □ 。 ……
となる。ここからそれぞれの部首を抜き出す。

第1章

第2章
日 水 日 水 月 日 火 木 ……
第3章
日 土 火 月 。 □ 。 ……
これを数字に置き換えれば、

第1章
1
第2章
1 4 1 4 2 1 3 5 ……
第3章
1 7 3 2 。 □ 。 ……
となり、それぞれが章の番号の平方根を表していることがわかる。

であれば、第3章は1.7320508...と続くのだが、0は日~土にはない。
□の前後に句点があるため「050→。□。」と対応していることが推測できる。
従って、□に入るのは一週間の5番目、「木」が含まれる漢字。
しかし、選択肢の中には「床」「柱」と、木を含む漢字が二つ存在する。
ここで、第1章~第3章に登場する漢字に含まれる日~土は、
全て『含む漢字の部首』であるというルールが必要になる。
「床」の部首は「まだれ」であり「木」ではないため除外、「きへん」を持つ「柱」が正解。


■久瀬太一/8月13日/22時05分

 ファーブルは、メールを確認して、頭を抱えたようだった。
 ――1勝2負!
 ソルの勝ちだ。
 オレは思わず、ガッツポーズをした。
「あれをください」
 と苛立たしげな声でファーブルは言う。
 彼に、小皿がさしだされたところで、窓にブラインドが下りた。
 立ち合いは、ここまでということだろう。
 彼らのやりとりはみえないが、ファーブルは嘘をつかないはずだ。
 オレはようやく、ソファーに腰を下ろす。


・【誰かからのメール】日の含まれる漢字が多いことと、金曜以外の要素が見つかることから、
 二つの解法ルートに惑わされてしまいました。
 しかし、全ての漢字にそれが含まれることに気づかなかったのは私の落ち度ですね。
 まぁ、エレガントな問題でした。
・【誰かからのメール】では、そろそろ情報交換をいたしましょうか。
 ルールにのっとって、私から2つの情報を提供いたします。1つ目は、下記についてです。
 「いま久瀬と同行しているドイルを名乗る人物を狙う犯人の心当たり」
 まず断わっておきますが、確かな情報をつかんでいるわけではありません。
 強硬派がドイル氏を狙っているのであれば、それは組織的なものでしょう。
 その中で、中心と呼べる人物がいるとすれば、ダザイ、あるいはホールのどちらかと思われます。
 2つ目は、下記についてです。「君が知っているすべてのプレゼントの名前とその内容を教えてほしい」
 プレゼントの内容は秘匿される方が多いため、すべてが正確な情報というわけではありません。
 1、ニールの足跡
 1歩で望んだ場所に移動できるプレゼントです。
 知っている場所、あるいは知っている人物を対象とするようですね。
 効果があるのは彼自身と、彼の持ち物に限られるようだ、という話をきいたことがあります。
 2、ノイマンの世界
 彼女が創造した世界に人を連れ込むプレゼントのようです。
 ただし、すべての人物に効果があるわけではないようです。詳細なルールに関しては把握しておりません。
 3、リュミエールの光景
 私が聖夜協会に入った時点では、すでに会を抜けられていた方のなので、詳細はわかりかねます。
 「映像を共有するプレゼント」であることは間違いないようです。発動の条件などは不明です。
 4、グーテンベルクの描写
 上記と同じく、詳細はわかりかねます。
 他者の記憶を文章として具体化できるプレゼントであることは間違いありません。発動の条件などは不明です。
 5、ドイルの書き置き
 情報収集に向いたプレゼントである、ということしか把握しておりません。ぜひとも詳細を知りたいところです。
 さて、「私が知っているプレゼント」は、これですべてです。
 ですがあなたが、私からの質問――「英雄の証のできるかぎり正確な在り処」にお答えいただけたなら、
 サービスでもうひとつだけ、プレゼントに関する情報をお渡ししましょう。
★スマホを所持しているレオンへ:英雄の証の在り処について初めに断わっておくのは、
 こちらが英雄の証として追っているものが間違っている可能性はゼロではないことである。
 場所は愛媛県伊予郡砥部町の山中ではないかと推測している。
 これ以上の絞り込みにはもう少し時間が必要で、今はこれ以上詳細な情報を持っていない
 今回は手に汗握る素晴らしいゲームだった。
 できることならば、次は賭けるもののない純粋な知恵比べを行う場を持てればと願っている
 →【誰かからのメール】ありがとうございます。おっしゃる通り、本日は実にエレガントなゲームでした。
 またあなたと一緒に、遊んでみたいものです。では、サービスです。「誰も知らないプレゼント」の噂が2つあります。
 一方は「名前のないプレゼント」と呼ばれるもの。
 もう一方は、「センセイがいなくなる時に作った」といわれるもの。
 どちらも詳細どころか、実在するのかさえ不明です。それでは、ごきげんよう。

■久瀬太一/8月13日/23時

 グレープジュースには手をつけなかった。
 あるいは「疲れている人間が安らかに眠れるよう、睡眠薬をサービスしておく」ことが善行だと主張されるかもしれない、と思ったからだ。
 部屋の扉がノックされる。
 オレは返事をしなかった。なのに扉が開いて、黒い服の男がふたり、部屋の中に入ってきた。
 一方が扉の脇に立ち、もう一方がオレに近づいてくる。そいつは透明なケースを持っていた。
「どういうことだ?」
 とオレは尋ねる。
 ケースの中には、ソルのスマートフォンが入っている。
 返事は天井の方からきこえた。スピーカーがついているようだ。
「私は、必ず約束を守ります。今夜中にスマートフォンをお返しするお約束でしたので、そうさせていただきました」
 男がサイドテーブルの上に透明なケースを置き、頭を下げて、部屋を出る。外からかちんと、鍵がかかる音がきこえた。
 オレは透明なケースに触れるが、それは開かない。鍵がかかっている。
「これは、返したとはいわない」
「ご心配なさらなくても、バッテリーが切れたころ、鍵をお開けいたします」
「どういうことだ?」
「現在、ソルさんからいただいた情報を確認しております。その作業が終わるまでは、貴方と彼とのあいだに連絡があって欲しくない。事務的な手続きです。もちろんソルさんを疑っているわけではありませんので本来なら不要ですが、何事も確認は必要ですからね」
「どう確認をとるんだよ?」
「それは秘匿させていただきます。こちらの確認作業は、明日の朝までには終わる予定です。それまでもうしばらくおくつろぎください」
 まぁいい。
 すんなり帰されるとは思っていなかったし、直接的な暴力はなさそうだ。
 オレはガラス越しに、ソルのスマートフォンをみる。ショーウインドウに飾られたトランペットをみるような気持ちで。
 バッテリーを切れさせるためだろう、スマートフォンでは、同じ動画が繰り返し再生されていた。
 なにかのボカロ曲のようだ。座り込んだ少女の元に向かって、少年が走っている動画だった。


★★★動画『少年ヒーロー』を介して久瀬と対話。

■久瀬太一/8月13日/23時15分

 できることもなくて、オレはソルのスマートフォンを眺めていた。
 そこに、奇妙なコメントが流れる。
 
――久瀬くんみてるかい?

 それに気づいた直後だ。

 ――久瀬くんみてるかい?
 ――またかあああああああああああ(ソル
 ――久瀬くん見えるか?!@ソル
 ――久瀬いるならなんか考えろ
 ――久瀬くんみえてる?
 ――久瀬くん、見えますか?
 ――久瀬みえてるか?
 ――やっほー久瀬くん!久しぶり!!!
 ――ただいまー!
 ――久瀬ファーブルに英雄の証の居場所がばれた相手はそれを探しに行った

 唐突に、ばっとコメントが増える。
 ソル? 疑うまでもないが。思わず透明なケースにつかみかかる。 
 ――☀久瀬氏,このコメントが読めたら「大丈夫,読めてる」と考えてくれ!
 大丈夫、読めてる。
 できるだけ素直にそう念じる。
 ――久瀬君ー グレープジュースはおいしかったかい?
 残念ながら、まだ手をつけていない。
 ――久瀬、ドイルを狙っているのは強硬派のダザイかホールだ!!
 どちらも知らないスイマだ。でも、情報が増えるのはありがたい。
 ――☀青年へ、先ほどの知性勝負、私は実に楽しめたよ
 それはよかった。なによりだ。
 ――久瀬、今八千代と何をしようとしているのか考えて
 ちょっと待ってくれ。混乱しているんだ。
 でもこの、言葉が大量に流れ込んでくんる感覚が懐かしくて、胸が熱くなる。
 その時、意識をかき乱すように、ファーブルの声がきこえた。

       ※

「お飲物をお取替えいたしましょうか? 久瀬さん」
 サイドテーブルの片隅には、まだ手をつけていないグレープジュースが載っている。
「同じものを頼む」
 とオレは答えた。
「了解いたしました。少々、お待ちください。そのあいだにひとつ、久瀬さんにお伝えしておきたいことがございます」
「なんだ?」
「こちらの方で、久瀬さんのお帰りが遅くなる旨を、ドイルさんにお伝えしようと考えていたのですが……どうやら、連絡が取れないようです」
 きたか、と思った。
「あんた、強硬派になにを話した?」
「ほんの些細な雑談ですよ」
「強硬派はどこにいる?」
「私は存じ上げません」
「でも、予想はついている」
「いえ」
「なら、知り合いに見張らせている。その上でまだ報告を受けていない」
 当たりだろう。
 しばらくのあいだ、ファーブルは沈黙した。
 それからゆっくりと答える。
「あるいは、私の知人であれば、なにか知っているかもしれません。もしよろしければ、手を尽くしてそれを調べ、貴方にお教えしても構いません」
「ぜひ頼みたいな」
 ファーブルはくぐもった笑い声を漏らす。
「でしたらひとつ、私とゲームをしませんか?」
「どんな?」
「私が久瀬さんに、2つの謎を出します。あなたがひとつ答えるたびに、私はひとつ、あなたの言うことを訊きましょう。ドイルさんの居場所も調べて差し上げます。一方で、答えられなかったなら、私のいうことを訊いて頂きます」
「それは、フェアな問題か?」
「もちろん。フェアでエレガントな答を持つ問題ですよ。貴方のご友人が、それを証明しています」
 友人? ――ソル、か?
 ファーブルがなにをしようとしているのか、おおよそ予測できた。
 ここまで彼の予定調和なのだろう。
 ――ファーブルは性格が悪い。
 隅から隅まで、むかつく奴だ。
「いつから始める?」
「そうですね。では、15分後にいたしましょう」
「23時30分だな?」
「はい。早い方がいいでしょう」
 オレはスマートフォンに視線を向ける。バッテリーの残量は、それほど多くはない。だが、もうしばらくはもつだろう。
「ひとつだけ条件がある」
「また条件ですか」
「2問あるなら、まとめて問題をくれ。制限時間は20分」
 短い沈黙の後で、ファーブルは答える。
「まあ、いいでしょう」
「なら、いいよ。あんたの言葉に嘘がないなら、受けよう」
 ファーブルは笑う。
「私は嘘はつきませんよ」
 助かるよ、とオレは答えた。


■久瀬太一/8月13日/23時30分

 ドアがノックされ、スーツの男が入ってきた。
 その男はシルバートレイの上に、メモとエンピツ、それから伏せたプリント用紙を2枚載せていた。
「もう30秒ほどで時間です」
 とファーブルの声が聞こえる。
「ああ」
 とオレは答えて、トレイの上のエンピツを手に取る。
「なかなかの難問ですよ」
「ああ。わかってるよ」
 オレはさらさらと、メモに試し書きをしてみる。大丈夫だ、と自分に言い聞かせる。問題はないはずだ。
「ところで、貴方が間違えた場合の、私からのお願いはね。そのスマートフォンの、永久的な譲渡です」
 こちらの意識をかき乱したいのだろう。
 オレは聞えなかったふりをする。
「では、はじめてください」
 とファーブルが言った。
 オレはトレイの上のプリント用紙を表にする。
 問題の内容は、もちろん知らない。ソルとのゲームのとき、ファーブルは問題を解いている姿を監視させることは許したが、謎はみせなかった。意図的だろう。
 2つの問題は、こうだ。

       ※

「問題1」
・次の詩は「貴方にプレゼント」という題名である.

ノイマンと呼ばれたのはいつからだっただろうか
大袈裟なノイマンの名は苦痛でもあった
私にはノイマンではない真の名前があるというのに
それでもファーブルが追い続ける謎の答えは見つからない
謎の名前はメリー。迷える羊を統べるプレゼントの女
あのかわいそうなニールに絶望の軛を引かせる謎
ああニール、あなたは今どうしているの
これほどまでに苦しいなら私は昔のままでよかったとさえ思っている
これがセンセイの望みだとはとても思えないから

・次の詩の題名を答えよ.

ニールの過ぎたる力は彼を幸せにせしか
ファーブルはそれを持たぬことを寿ぐべき
すべてを知るはメリーのみ
メリーとはいったい何者なるや
本当にセンセイの代弁者なるや
ノイマンはそれを信じているだろうか
今メリーはどんな世界を描かんとするや
抗いつづけるノイマンにも誰にも答えは見えじ

       ※

「問題2」
太陽より始まる物語

-第1章-
春のはじまり

-第2章-
あの晩の海に映っていたのは
満月と星の燃える様……

-第3章-
時の城に無いのに有るもの。
それは□だ。……

□に当てはまるものは何か。次の中から選べ。
壁 床 柱 門 塀 鍵 窓


■久瀬太一/8月13日/23時48分

 動画内に、【ここから問題回答用スペース】とコメントが流れたのをみて、くすりと笑う。
 ――ファーブルは、ソルの問題をオレに出すつもりだ。
 フェアで、エレガントな答を持つことを、ソルが証明してくれる。そう断言できるのは、他にはない。ソルが「フェアで、エレガントな問題」として作成したものであれば、彼らには文句がいえない。
 オレは笑う。
 ――ファーブルは、丁寧にやりすぎた。
 まさか動画のコメントにソルからのメッセージが流れているなんて、想像もつかないだろう。それは仕方がない。ファーブルにあいつらを、正確に理解できるはずがない。あいつは常識の枠を超えている。
 あまりに早く答え過ぎても、不審がられるだけだろう。オレはまったく意味のわからない問題用紙を、しばらく眺めていた。
 時間ぎりぎりに、口を開く。
「聞えているか、ファーブル」
「ええ、もちろん」
 ボカロ動画には、すでに正解が書き込まれていた。きちんと解答用スペースの後ろだった。
「英雄と悪魔」
 とオレは答える。
「1問目の答えは、英雄と悪魔。人名を母音、人名までの文字数を子音に対応させて解く。先頭からの文字数が段を示す。1文字目はア段、2文字目はカ段、という風にすれば、答えがわかる。正解だな?」
 長い沈黙のあとで、ファーブルは言った。
「どうして」
 お前はソルに向かって、ソルの問題を出したんだ。負けて当然だ。でもわざわざ、そんなことを説明してやるつもりもなかった。
「2問目は、柱だ」
 カンニングもいいところだが、ファーブルだって問題をソルから盗んだんだ。まあ、お互い様でいいだろう。
「太陽から始まる、という文は、曜日を現す。日曜日からはじまるということだ」
 日月火水木金土を順に、1、2、3、4、5、6、7と割り当てればいい。第1章は春の部首をとり、日で1になる。第2章の漢字の部首を取り出すと14142……となり、第三章は1732となる。だから答えとなるのは、ルート3の次の数字だ。ゼロはどれにも該当しない。5は木曜だ。木が部首の漢字をさがせばいい。
 ――自分でも、なにを言っているのかわからなくなりそうだ。
 苦々しげな口調で、ファーブルは言った。
「正解です」
 オレは胸をなでおろす。
 ソルのスマートフォンを奪われるわけにはいかない。


■久瀬太一/8月13日/24時

「反則だ」
 とファーブルは言った。
「反則事項の取り決めはなかった」
 とオレは答えた。
「約束を破るのは悪い子だ」
 そう告げると、ファーブルが言葉を詰まらせたのがわかった。
「じゃあ、こちらからは2つ、要望を出す」
 事前に考えていたことだ。
「ひとつ目は、今すぐに、あらゆる意味でオレを解放すること」
 動揺が残っているのだろう、普段よりも甲高い声で、ファーブルは「わかりました」と答えた。
「スマートフォンは今夜中に返してもらう約束だ。あんたが嘘つきじゃなければ、すぐに返してもらえるな?」
 また。長い沈黙のあとで、ファーブルは「はい」と答える。
「じゃあ、ふたつ目のお願いだ」
「ドイルさんの居場所ですね?」
「いや」
 実は、それはもう知っている。

       ※

 一昨日のことだ。
 情報元は明かせない、と断わった上で、オレは八千代に言った。
「少なくとも強硬派は、強引な手段であんたの口を割る方法を考えている。標的がオレに移り変わっていなければ、近々、あんたは奴らに捕えられる」
 そのとき、八千代は爪を切っていた。
 親指の爪の形を気にしながら、彼は笑って「へぇ」と答えるだけだった。
「狙ったんだろう?」
 とオレは確認する。
 でなければファーブルに、あんなことを言うはずがない。
 ――八千代はメリーに褒められる方法を知っている。
 たぶんそれは、彼らにとっては無視できない言葉なのだろう。少なくともファーブルが強硬派に情報を流し、八千代を襲わせるくらいには。
 八千代はまだ笑っていた。
「強硬派は、どうとでもなる。法を犯すとわかっている相手は敵じゃない。国が守ってくれる」
「でも、みさきはさらわれたままだ」
「準備が足りなかったんだ。旅には準備が必要だ。パスポートはきちんと貴重品袋にいれておかなければならない」
「わざと襲われるつもりか?」
「反対かい?」
「いや」
 似たことを考えていた。
「みさきの姉と、電話で話した。誘拐された女の子の家族だ。たぶん彼女を頼れば、警察の動きも早くなると思う」
「うん、都合がいいね」
「あんたのことも紹介しておいた」
「どうして?」
「もしオレがさらわれたら、あんたから彼女に連絡を取ってくれ。八千代だと名乗れば通じるはずだ」
 彼は肩をすくめる。
「オレの方が、上手くやられたふりができる」
 でもオレは、バスの窓から、八千代が血を流す景色をみている。あれがやられたふりだとは思えない。
「こっちが襲われたときの保険だよ。基本的には、あんたに頑張ってもらうつもりでいるさ」
「ふうん。ま、いいよ。保険は嫌いじゃない」
 八千代の表情は、苦笑に似ている。
 かまわずにオレは言った。
「互いの位置が、すぐにわかるようにしておきたい」
「ああ。発信機をふたつ用意しよう」
「すぐに手配できるか?」
「明日には手に入る」
 とりあえず、信じてもいいだろう。
 ふと、疑問に思う。
 ――あの未来のオレたちは、同じ備えをしていなかったのか?
 どうして八千代が血を流しても、警察はかけつけなかったのだろう?
 その疑問は、次の八千代の言葉で氷解した。
「とはいえ、強硬派だけ足をとめても仕方がない」
「ファーブルか?」
「うん。余計な荷物はまとめて捨てたいな」
 だが、ファーブルは自身では手を動かさない。
「どうするつもりだ?」
「ファーブルは強硬派を裏切るよ。たぶんね」
「裏切る?」
「強硬派がオレの口を割ったら、きっとあいつの仲間たちがわらわらとやってくるよ。人助けだ、なんとしても彼を救い出せ、ってね」
「それで?」
「強硬派はやっぱり警察に捕まる。その前に、ファーブルの一味がオレから聞いた情報を訊き出す。相手は『人を拉致して暴行を加えた強硬派』だからなにをしようと問題ない。ファーブルはヒーローごっこがしたいんだ。そして情報を独占する」
「なら、あんたはさっさと口を割った方がいい」
「どうかな。ヒーローは遅れてやってくるもんだよ」
 八千代が切り終わった爪にやすりをかける。
「あいつらからすれば、オレは邪魔者だ。ある程度痛めつけてから助け出した方がいい。そのある程度が読み切れない」
「なら、こっちでさっさと、警察を呼べばいいじゃないか」
「いや。狙うのは、ファーブルの一味が強硬派のところに踏み込んだタイミングだ」
「どうして?」
「ファーブル側も、強硬派に暴力で負けたら意味がない。情報を独占するには、警察がくる前に、あいつらの口を割らないといけない。そのタイミングを上手く狙えれば、両方のグループの足を止められる。警察からみればどちらも悪者だ」
 なるほど。
 ファーブルは強硬派と八千代の足止めを狙っていて、八千代はファーブルと強硬派の足止めを狙っている。
「ボタンを押したら、SOSの信号が届くようにしておくよ。危なくなったら助けを呼ぶよ。君はそれからゆっくり、警察に連絡してくれればいい」
 と彼は言った。
 ――その結果が、血を流す八千代か。
 ファーブルを捕らえるために、ファーブルの助けをぎりぎりまで待って、ああなったのだろう。
「つまり別の方法でファーブルの足止めができたなら、さっさと警察を呼んでも問題ないわけだ」
「ああ」
 爪に息を吹きかけて、八千代は頷く。
「とはいえその方法がみつからない」

       ※

 だが、ファーブルは必ず約束を守るはずだ。
「ふたつ目のお願いはこうだよ、ファーブル」
 オレは笑う。
「あんたも、あんたの仲間も、今後一切『英雄の証』に関わるな。手に入れようとすることも、話題に出すことも禁止する」


【BREAK!!/BAD FLAG-04 囚われた男 回避成功!】


★久瀬へ:スマホの奪還おめでとう。
 15日に向けてこちらからも確認をしたいのだが、今、君とドイルとで計画していることについて教えてほしい。
 ちなみにファーブルとのゲームはどれも白熱した、とても楽しいひと時であったよ!
 →【久瀬さんからの返信】いつもありがとう。計画については、進行中だが、みんなのおかげで上手くいきそうだ。
 説明は少し長くなる。ゲームは、みていても手に汗を握ったよ。勝利おめでとう!
★久瀬へ:勝負の結果として、こちらからはヒーローバッヂを埋めた大まかな場所を開示することになった。
 協会と競争になるので、急いでほしい。
 →【久瀬さんからの返信】わかった、ありがとう。大枠では、ファーブルは動けないはずだが、安心はできないな。
★久瀬へ:強硬派がドイルを狙っているとしたら組織的なものであり、
 中心を担うとしたら、ダザイもしくはホールとのことである
 →【久瀬さんからの返信】わかった、ありがとう。ダザイ、ホールか。そのふたりの名前は覚えておく。
 八千代ならなにか知っているかもしれない。
★久瀬へ:受信、送信履歴を見てください。
 ファーブルが消してなければ、その履歴にあるメールで今回のより細かな事情がつかめるはずです
 →【久瀬さんからの返信】わかった、ありがとう!
★久瀬へ:君が愛媛にいる時に越智くんたちと埋めたタイムカプセルについて聞きたい。
 埋めた具体的な場所や目印にした物、どんな些細な事でもいいから埋めた時の事を思い出せたら教えて欲しい
 →【久瀬さんからの返信】わかった。みんなのおかげで、とりあえず目先の障害物がなくなったんだ。
 オレもそっちに集中するよ。
★久瀬へ:よくやった(いろいろな意味で)
 そのせいで私たちが八千代を襲おうとしている奴らを聞いた情報が無駄になってしまったじゃないか…
 ほんとによくやった
 →【久瀬さんからの返信】ダザイとホール、だな。名前をきけたのは助かったよ。
 取りこぼしがあるかもしれない。きちんと足を止められたか、確認したい。
 ……どうしても八千代を頼ることになるな。
★久瀬へ:どうやらうまくいったようだね.君と八千代氏の機転に敬意を表する.怪我には気を付けてくれ.おめでとう
 →【久瀬さんからの返信】ありがとう!みんなのおかげだ。
 できるかぎり怪我には気をつけたいと、いつも思ってるんだ。
★久瀬へ:やるじゃないか。君と八千代はいいコンビでやってるようだな
 →【久瀬さんからの返信】いいコンビかどうかは知らないが、あいつには助けられるよ。
 もちろん、ソルたちにも。それがなければ、残念だがなんにもできない。無敵のスーパーヒーローになりたいもんだ。
★久瀬へ:プレゼントは壊すことができるかもしれない。
 八千代にニールの連絡先を聞いて、彼に「君は今はとらわれていないだろう」と送ってほしい
 →【久瀬さんからの返信】よくわからないが、わかった。そのまんまの文面を送るよう、八千代に伝えておく。
★久瀬へ:今回のファーブルとのメールのやりとりでは、皆で相談して
 久瀬くんにメールするときと違った口調・態度にしています。
 もし信用してない人にソルのことを説明する際には、
 そのファーブルとメールしたときの口調・態度を参考にしてください。
 あと今回のファーブルへの要求である
 「今後一切『英雄の証』に関わるな。 手に入れようとすることも、話題に出すことも禁止する」も、
 八千代に説明するときに『あいつ』と一人のように説明したのも助かりました。本当にありがとう
 →【久瀬さんからの返信】わかった、メールを読み込んでおく。ソルの話題は、できる限り気をつけるよ。
★久瀬へ:今回のようにスマホを取られるなどして我々と連絡を取れなくなることがあると思う
 なので、それの対策を久瀬くんにも考えてほしい
 →【久瀬さんからの返信】わかった。先週は未来のオレを通して、たぶんあの「これで完璧」のサイトで、
 今日は動画で連絡をとれたわけだからな。スマートフォンがなくても、方法はあるかもしれないな。
 もちろんできるだけスマホをなくさないように気をつけるが、保険は大切だ。

■久瀬太一/8月13日/24時45分

 八千代救出に関する連絡を終えてから、オレは久しぶりにソルのスマートフォンを覗き込む。
 それは次々に震えていて、なんだか生きているようで、勇気づけられた。
 ソルたちはやはり不思議だ。ただ暖かなメッセージ、冷静に次を見据えたメッセージ。様々なものが混じり合っていて、ばらばらなようで、でも奇妙な統一感も感じる。彼らからのメールを受け取っていると、なにか大きな、オレがいるのとはまったく別の世界に含まれているような気がする。
 ファーブルたちのビルを出たところで、道端で足を止めて、オレは必死に彼らへのメールに答える。嘘をつく必要も、誤魔化す必要もない。脳を使っていても、マラソンに似た、単純な心地良さがあった。

       ※

 24時30分になるころに、電波が切れた。
 その直後、バッテリーがなくなったのだろう、モニターがブラックアウトする。
 まだ暖かなそれを、オレは強く握りしめる。
 ――戻ってきたのだ。
 このスマートフォンが。彼らからの言葉が。
 なんだか安心して、オレは息を吐き出した。

       ※

 八千代に電話が繋がったのは、24時45分になるころだった。
「よう」
 と軽い口調で彼は言って、オレも「よう」と答える。
「無事か?」
「軽く殴られた」
「血は流れたか?」
「それほどじゃない。少し痣ができたくらいだ」
「顔をみるのを楽しみにしてるよ」
「ああ。いい男は、傷ついたときが一番恰好いいもんだ」
 ファーブルの方は? と八千代に尋ねられ、「英雄の証を探さないように約束させた」と答えた。
「どうやったんだ、そんなの」
「友達が頑張ってくれたんだよ」
「どんな友達だ?」
「じつはオレも、よくわからない」
 じゃあなと言って、八千代が通話を切った。
 ――なんだか、ずいぶん長い夜だったような気がする。
 とはいえ、目の前の問題は、これで片づいた。
 ――次はヒーローバッヂだ。
 それを手に入れれば、メリーへのルートが生まれるはずだ。
 
――To be continued


★★★「愛媛の愛情100%」管理人よりメール:待ち合わせ場所やタイムカプセルの場所は、
 合言葉「ロケット」を知らない人には教えないようにします。
ごめんなさい1 ごめんなさい2 → ごめんなさい3 ごめんなさい4

山本さま

ストーカーですか……それは深刻ですね。はやく解決されることを願っています。道中、充分にお気をつけて。
わかりました、待ち合わせ場所やタイムカプセルの場所は、合言葉「ロケット」を知らない人には教えないようにします。
※土曜日の件ですが、予報では愛媛は降水確率が高いようです。強い雨が降った場合の危険性を考えて、ひょっとすると予定がちょっと変更になるかもしれません(山へのご案内が17日(日)になるなど)。
 まだ確定ではありませんが、念頭に置いていただけるとありがたいです。


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最終更新日 : 2015-07-30

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