【報告書】作成者:ましろ

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2014-08-09 (Sat) 23:51

『ある男の視点3』

ある男の視点3-1
 ※『ある男の視点3』:尾道(広島)のカフェ「Coyote」にて『ある少年の光景3』と共に発見。

 ロンドンにあるアビー・ロードはずいぶん
な観光地になっているらしく、ウェブカメラ
で二四時間中継されていた。
 母が出て行った頃から、親父はよくその動
画を眺めるようになった。
「その気になりゃ、オレは明日にでもここに
いけるんだぜ」
 と親父はよく言った。でもあいつがその映
像に映り込むことはなかった。
「いつだってここにいけるんだ」

 あんたはそこにはいけねぇよ、と内心で応
えながら、オレは愛想笑いを浮かべていた。
 ※
 母はクリスマスに、スニーカーを贈ってく
れた。
「たくさん履いて、ぼろぼろにしてね」
 と母は言った。
「また買ってあげるから、好きなだけ走り
回ってね」
 オレは嬉しかった。本当に。それはどこに
でもいける靴なのだと思った。
 でもオレは、そのスニーカーを箱に入れた
ままベッドの下にしまい込んだ。たまに、夜
中にひとり、部屋の中でそのスニーカーを履
いてみたことはある。でも外には出かけな
かった。
 オレは親父を怖れていた。
 もしあいつに、このスニーカーのことがば

れたらきっと、ひどく叱られる。すぐに捨て
られてこれはオレのものじゃなくなる。そう
わかっていた。だから履けなかった。
 でも、そんな警戒は無意味だった。
 ある日学校から帰ってみると、オレのス
ニーカーはなくなっていた。通いの家政婦に
みつかって捨てられたのだとわかった。
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ある男の視点3-1 ある男の視点3-2 ある男の視点3-3 ある男の視点3-4
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最終更新日 : 2014-11-05

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