

※『ある男の視点1』:名古屋のカフェ「Ohana」にて『ある少年の光景1』と共に発見。
一五年前のオレは、どこにでもいるような
中学生だった。そこそこ勉強ができて、愛想
笑いが得意だった。
オレと同じ人間なんていない。そう叫びた
くなる。でもきっとオレと同じような中学生
はこの世界中にいて、オレと同じように苛立
ちながら、オレと同じようにいろんなことを
諦めている。きっと、そういうことなんだと
思う。
※
親父はそれなりに金を持っていたから、世
間的には不自由のない裕福な家庭にみえただ
ろう。いかにも最近の金持ち風のスタイリッ
シュな家に住み、美味いものの感激を忘れる
くらいに美味いものを食い、いちいちブラン
ドの名前がついた服を着ていた。
うちの家に足りないものがあるとすれば、
それは母親くらいなものだった。彼女が家を
出たのは、オレがまだ小学校を卒業する前の
ことだ。母はオレを引き取りたがっていたと
聞いている。でももちろん親父はそれを許さ
なかったし、結局オレは、強い主張もなく、
あの家で生活することになった。
傍からどう見えようが、オレには自由なん
てものはなかった。食事も、日常も、ささや
かな趣味も、すべて管理されて過ごした。
毎朝、ぴかぴかの革靴を履くたびに、ひど
く気分が落ち込んだのを覚えている。
それは心が躍らない靴だった。親父によっ
て整備が行き届いた、でも花ひとつない道を
まっすぐに、同じペースで歩くためだけの靴
だった。
--こんなんじゃ、どこにも行けねえよ。
毎朝、ぴかぴかに磨かれた革靴をみるたび
にオレは、内心でそうぼやいていた。
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最終更新日 : 2014-11-03