【報告書】作成者:ましろ

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2014-08-02 (Sat) 23:59

8月2日(土)

【メリーの視点】 8/1 / 書籍P:284 ← 3D小説「bell」 → 8月3日(日)
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★★★食事会「聖夜の集い」の待ち合わせ場所にソルが到着。

■久瀬太一/8月2日/17時20分

 八千代が待ち合わせに指定したのは、ちょうど駅と駅の中間ほどの落ち着いた一画にある、品の良いカフェだった。店の前にはオープンテラスもあったけれど、夏の陽射しが強く、そこに座ろうという気にはなれなかった。
 店内にはレコードの、レトロな音が流れていた。曲名はわからなかったが、心地のよい音楽だ。
 オレがその店に入ったのは、待ち合わせの時刻の10分ほど前だった。店内をざっと見回しても、ひとりきりの男性客はいない。きっと八千代はまだなのだろう。
 オレは空いていた席に座り、アイスコーヒーを注文する。
 それから、ポケットに入れていた2台のスマートフォンを取り出した。一方は自分のもの。もう一方はソルのスマートフォンだ。この数日、ソルのスマートフォンはずっと「圏外」だが、手放すわけにもいかない。
 まず自分のスマートフォンに届いていた、友人からのメールを確認する。飲み会への誘いだ。みさきの誘拐に関して、オレ自身にできることはほとんどなかったとしても、そんなものに参加する気にはなれなかった。短い断わりの返信を入れる。
 それから、ソルのスマートフォンのロックを解除した。
 やはり、電波はない。


■久瀬太一/8月2日/17時35分

 八千代は約束の時間に、5分ほど遅れて現れた。
 彼は20代の後半ほどにみえる、背の高い男だった。細いストライプの入った、落ち着いた赤のジャケットを着崩している。顎の髭を少し残していて、胡散臭い芸術家のようにみえた。
「やあ」
 と八千代は微笑んで、オレの向かいに座る。
 店員に向かって、「アイスオレね。氷はいらない」と注文した彼は、こちらに向かってにっこりと笑って名刺を差し出す。
「次からはこっちに連絡してね。家にはさ、滅多に帰らないから」
 オレはその名刺を受け取って、眺める。
 八千代雄吾。携帯電話の番号とメールアドレスが併記されている。会社名や住所はなかった。
 気になったのは、その肩書きだ。――旅先案内人。
「ガイドなんですか?」
「ああ。そう思ってもらっていい。オレはね、君たちの知らない場所を案内するのが仕事なんだ」
 八千代の仕事は、別にどうでもよかった。でも、少しでも彼の人柄を知るために、オレはその会話に乗ることにした。
「じゃあ、たいていは海外にいらっしゃるんですか?」
「そうでもない。いろいろだよ」
「たとえば、どんな場所の案内をするんですか?」
「よく行くのは、日の当たらない裏路地だね。いったいなんの仕事をしているのかわらない会社ばかりが入っているテナントビルとか、みたことあるだろ? そういうのが密集しているところが多い」
「そんなところ、観光して楽しいんですか?」
「楽しくはないよ。楽しい場所にガイドはいらない。オレが案内するのは迷いやすい裏路地、一寸先もみえない闇の中、気がついたらはまっていた落とし穴の底。そんな場所だよ」
「普通の旅行じゃなさそうですね」
「うん。普通じゃない」
 店員が運んできた、氷の入っていないアイスオレを、八千代はゆっくりとストローでかき混ぜる。それからストローをテーブルの脇に置き、グラスに直接口をつけて飲んだ。
「たとえば君に親友がいたとしよう。君の部屋に遊びに来て、一晩泊まって、帰っていった。経験ある?」
「はい」
「だいたい、その半年後くらいかな。君の元に催促状が届く。当方はマルマル氏に金100万円を貸し付けたものです。貴殿がその債務の連帯保証人をされています。ですが該当契約に基づく分割弁済金が支払われておりません。――こんな風に」
「どうして?」
「君の親友が、判子を持ち出してぽんとついたんだ。それだけで君は旅先に放り出されるんだよ。自分の部屋も、通っている学校も、まったく知らない場所にみえてくる」
「旅なんてものじゃありませんね」
「まったくだ。それを旅にしてやるのが、オレの仕事だよ」
 八千代はまたアイスオレに口をつける。
「パスポートを用意して、チケットを手配して、また君の家に帰れるようにする。非現実と現実は隣接しているんだ。でも一方通行だよ。一度線をこえてしまうと、コツを知らなきゃ元に戻れない」
「つまり、なんでも屋みたいな仕事ですか?」
「なんでもはしない。オレは案内するだけだ。闇金融の見所はこちらです。法律の穴もぜひ押さえておいた方がいい。充分堪能しましたか? それではお帰りはこちらです、てね」
 まとめてしまうと、胡散臭い男だ。
 そう感じることに少し安心した。一見信用できそうな男の方がずっと怖い。
「連絡名簿は持ってきていただけましたか?」
 とオレは切り出す。
 八千代は頷いて、茶封筒をテーブルの上に置いた。
「この中に入っている」
「確認しても?」
「その前に少し、君と話をしたいな」
 それくらいいいだろ? と八千代は首を傾げた。


■久瀬太一/8月2日/17時45分

 オレは眉間に皴を寄せる。
「話って、なんの?」
「ありきたりな世間話だよ。君、聖夜協会のクリスマスパーティに参加したことは?」
 どうして、そんなことを聞きたがるんだろう?
 わからない。が、やっぱりオレは嘘が苦手だと、昨夜反省したところだ。オレは事実を答える。
「あります。幼いころに、何度か」
「その会場に、『少年』は何人いた?」
 少年?
「それは、いくつくらいまでですか?」
「当時の君と同い年くらいだよ」
「たぶん、いなかったと思います」
 みさきとちえりの他には、同年代の子供には出会わなかった。高校生くらいなら、他にも何人かいたような気がするけれど。
 八千代がじっと、オレの顔を覗き込む。
「本当に?」
「はい。はっきりとは覚えていませんが」
「いいねぇ」
 彼は嬉しそうに笑う。
「君、今、いくつ?」
「21ですよ」
「じゃあ最後の質問だ。12年前――9歳の時にも、クリスマスパーティに参加したかな?」
「いえ」
 オレがあのパーティに行っていたのは、幼稚園から、小学校の2年生――8歳のときまでだ。はっきりと覚えている。最後にあのパーティに参加したのが、母親が死んだ年だったから。
 八千代はあからさまに笑顔を引っ込めた。
「そうかい」
 つまらなそうな口調。いったい、なんだっていうんだ。
「12年前のパーティで、なにかあったんですか?」
「いや。なんでもない」
 八千代はアイスオレを飲み干して、紙幣をコースターの下に挟んで席を立った。茶封筒はテーブルの上に置かれたままだ。
 彼はゆっくりとオレの隣に立ち、右肩に手を置く。
「残念だけど、君はハズレみたいだ」
 直後、右肩に激痛が走った。――息が詰まる。咄嗟には声が出せない痛みだった。
 八千代は信じられない力でオレの肩をつかんだまま、耳元に口を寄せる。
「推測だが、ほとんど確信しているよ。アカテから食事会の招待状を受け取ったのは、君の仲間だ」
 アカテ、というのが何者なのか、オレはまだ知らない。
 だがソルは今日の食事会に、「ドイル」という名前で潜入すると言っていた。ドイルは八千代だろう。ソルは八千代の代わりに、食事会に行こうとしている。そこまでは想像がつく。
 痛みの中で、ろくに回らない頭で、オレは口を開く。
「白い星は、オレが持っている」
「なんとなくそんな気がしていたよ。じゃあ、返してくれないかな」
 オレが持っている白い星は、おそらく八千代のものではない。でも彼はそこを、都合よく解釈してくれたようだった。
 ――こいつの意識を、ソルに向けちゃいけない。
 よくわからないが、そう思う。
 一瞬、右肩の痛みが引き、直後にさらに強い激痛が走った。
「星はどこにある?」
 オレはどうにか答える。
「手元にはない」
 嘘じゃない。ソルには、あの星は慎重に扱えといわれていた。
 だから八千代に会うのに持ってくるのは避けた。
 彼は首を傾げる。
「そう。おかしいな。食事会はもうすぐだ。今から自宅まで取りに帰る時間もないだろう」
 それは質問ではなかった。
 八千代は屈み込み、痛みで身動きが取れないオレのポケットに手をつっこむ。そして、笑った。
「なるほど」
 彼が指先でつまみだしたのは、コインロッカーのキーだった。
 番号が振られている。でも、それをみただけでは、どの駅のものかまではわからないはずだ。
「程よい時間稼ぎだ。悪くない」
 八千代がそう言った直後、今度こそ痛みが引いた。
 激痛はオレに、急激な疲労を与えた。長い時間、歩き続けたあとのように、オレは疲れ切っていた。
「名簿は置いていくよ。好きにしてくれていい」
 そう言って、八千代はオレに背を向ける。
 そのまま帰すわけには、いかなかった。
 オレは右手で、彼の腕をつかむ。――動かすと肩がずきんと痛んだ。
「待てよ。鍵は置いていけ」
「あの白い星はオレのものだよ。ただ返して貰うだけだ」
 八千代はへらへらと笑う。
「それに、もうすぐパーティだからね。ちょっと急がないといけない」
 一瞬、彼の腕に力がこもった。
 強い力。オレは腕を引っ張り返す。
 ――その直後だった。
 視界が、ぐるんと回った。席に座っていたはずのオレは、気がつけば床に倒れ込み、天井を見上げていた。なにをされたのかもわからない。ただ八千代の腕を掴んでいる右手の手首が、ずきんと痛んだ。
「へぇ。放さないんだ。なかなか根性があるねぇ」
 彼は空いている方の手で、オレの手首をつかむ。また、激痛が走る。直後、肩の辺りを蹴られた。彼の腕がオレの手から抜け落ちていた。
「ま、今日のことはお互い、水に流そう。困ったことがあったら連絡しておいで。君も旅先に迷い込んでいるみたいだからね」
 そう言い残して、八千代は店を出た。

       ※

 立ち上がったオレは、痛む手首を押さえてカフェを飛び出す。
 だが、通りの左右を見回しても、八千代はいなかった。
 ――くそっ。
 奴はどこに行った? オレはどう行動すればいい?
 ついポケットの中の、ソルのスマートフォンを握りしめる。


■久瀬太一/8月2日/18時

 考えろ。考えろ。そう胸の中で繰り返す。
 ――オレが素直に行動するなら。
 まっすぐに、正解のコインロッカーの前に移動する。
 もし八千代がその場所を捜しあてられたとしても、多少は時間がかかるはずだ。先回りできることになる。
 ――なら、八千代はどうする?
 オレの後をつける、というのが、正しいように思った。
 姿をくらませて、オレを焦らせて、正解のコインロッカーに向かわせる。あいつはそのあとをついてくる。
 オレはもう一度、辺りを見回してみる。だがやはり八千代の姿はない。今もどこか、物陰からこちらをみているのか? それとも本当にひとりで歩いて行ってしまったのか? 食事会の待ち合わせ時間までは、あと40分ほどだ。たった40分で、どの駅にあるのかもわからないコインロッカーをみつけだせるものなのか?
 ――最悪に備えよう。
 とオレは考える。
 たとえば知識があれば、鍵やタグの形状から、駅がわかるかもしれない。
 オレは一度カフェに戻り、聖夜協会員の名簿をつかんで会計を済ませてから、まっすぐに駅の方向へと走る。


■久瀬太一/8月2日/18時10分

 前方に、深い赤のジャケットがみえた。
 ――八千代だ。
 間違いない。奴はスマートフォンで誰かと電話しながら、悠長に歩いている。
 オレは速度を緩めずに走る。目の前に迫った肩に手を伸ばす。
 つかんだ。はずなのに。
 指先にはなんの感触もなかった。八千代は身を捻ってかわし、こちらをみていた。
「足音。うるさいよ」
 伸ばしたオレの腕を、八千代がつかんでいた。その動作が、オレにはまったく目で追えなかった。
 腕をつかまれたまま、彼を睨む。
「食事会に出るつもりか?」
「間に合えばね。美味い料理が食えるときいている」
 八千代は通話を切り、スマートフォンをポケットに落とした。
「よくわからないな。ならどうして、招待状を手放したんだ?」
「手放したわけじゃない。君の仲間が、勝手に持っていったんだ」
 ソルがなにかしたのか? まあ、なんだってできそうな奴らではある。
 八千代がオレの腕を離す。
 彼に向き直って、オレは言った。
「八千代さん。あんたはドイルか?」
 彼の興味をこちらに引きたかったのだ。――それに、もう少し踏み込んだ話をしたい、というのもある。
 八千代は頭を掻く。
「どこでその名前を?」
「それはいえない。オレはただ、あんたらにさらわれた女の子を助けたいだけなんだ。協力してくれないか?」
 彼はしばらく、じっとオレの顔をみていた。
 それから首を傾げる。
「不思議だねぇ。君からすれば、オレは敵の一派にみえるはずだ」
「そうでもない」
 誘拐犯――あのニールという男は、オレが白い星を持っていることを知っている。それは4つの錠がついていた小箱からみつかったものだ。でも、少なくとも八千代はそのことを把握していなかった。
 少なくとも、ニールと八千代は、それほど密には情報の交換をしていない。単純に同じ一派だとは考えづらいように思う。 
 とはいえその辺りの事情を、素直に話す気にはなれなかった。
「聖夜協会全員が、彼女の誘拐に関わっているわけでもないんだろう? どちらかといえば無関係な人間の方が多いんじゃないか?」
 ただの当てずっぽうだ。
 でもあの廃ホテルにみさきが連れ込まれていたとき、誘拐犯はふたりだけしかいなかったように思う。少なくともオレがあのサラリーマン風の男と殴り合っていたとき、増援はこなかった。おそらくニールがみさきを連れ去っただけだ。
 八千代は頷く。
「よしわかった、手を組んで一緒に、君の彼女を取り戻そう」
 彼は真面目な顔でそう言って、それから笑った。
「これで満足かい? 久瀬くん」
 そんなわけがなかった。
 八千代はさらに続ける。
「残念だけどね、この世界はなにもかもが言葉で片づくわけじゃないんだよ。会話で物事を推し進めるには、それなりの信頼関係が必要だ。そしてオレと君との間には、まだそんな素敵なものはない」
 確かに彼がなにを言おうが、オレにはそれを信じられない。
「ああ。残念だ」
 できるなら、あまり痛い目には遭いたくないのに。
 オレは微笑んで、彼に一歩近づく。
「なら八千代さん。こうしよう」
 オレは思い切り、八千代の顔面に向かって拳を振った。
 彼は肩慣らしのキャッチボールみたいに、あっさりとオレの拳をつかむ。
「あのねぇ――」
 八千代が口を開くが、そんなことどうでもいい。
 オレは行動の手順を決めていた。それを、ひとつひとつ実行していく。
 空いている左手には、すでに腕時計を握り込んでいた。至近距離から、彼の顔めがけて、それを投げつける。
 結果はどうでもいい。すべての行動のタイムラグを極力短くすることを考える。腕時計を投げた勢いで、八千代に向かって一歩踏み込み額を彼の頭にぶつける。
 ここで反撃が来た。こめかみに強い衝撃。どうやら殴られたようだ。
 一瞬、意識が飛んだように思う。平衡感覚が消え去り、膝に力が入らなくなる。
 ――倒れるなら、前だ。
 八千代の方。彼に詰め寄らなくてはいけない。
 オレはアスファルトに両膝を着きながら、八千代の腰の辺りにつかまる。背中に肘を落とされる。1発、2発。上手く息を吸えない。
 最後に押しのけるように、膝で顔を蹴られて、オレはアスファルトに倒れ込む。空がみえた。夕暮れにはまだ早い。
「暴力反対だよ」
 と八千代が言ったように思う。うまく聞き取れなくて、耳鳴りがしていることに気づいた。
 オレはなんとか立ち上がり、うなずく。
「まったく同感だよ」
 殴り合っていいことなんて何もない。一方的に殴り倒されるとわかっているならなおさらだ。でも、少なくとも目的は達成した。
 オレは右手に、コインロッカーの鍵を握ってていた。彼の腰に掴まったとき、ポケットから抜き取ったものだ。
「悪いんだが、こいつはもうしばらくわたせない」
 そう告げて、オレはコインロッカーの鍵を口の中に放り込む。少ししょっぱい。とても嫌だ。
 ――追いかけてきたら飲み込むぞ。
 と言ったつもりだったが、相手に上手く聞き取れるように喋れた自信はない。
 オレは八千代に背を向けて、彼から逃げ出した。


★★★ソルは高級国産車にて現地会場へ。

■佐倉みさき/8月2日/18時30分

 以前から、この日ノイマンは聖夜協会の食事会に行くと言っていた。
 でもまさか誘拐した人間を、ひとり部屋に置いて出かけるつもりとは思わなかった。
「もちろん逃げ出そうと思えば、逃げ出せるわよ」
 黒一色のカバンを肩にかけながら、ノイマンは言った。
「でも貴女はこの部屋を出ない」
「どうしてわかるんですか?」
「貴女は意外と理性的だから。これまでにも抜け出すチャンスはいくらでもあったけれど、そうしなかった。たぶんニールのことがもう少しわからない限り、ここに留まっている」
 その通りだ。
 ニール。あの、サングラスの男。
 あいつはなにを考えているのかわからなくて、不気味だ。でもそれだけじゃない。あの瞬間移動みたいに急に現れる現象が気になっていた。
 あり得ない話だけど、もしあいつが本当に瞬間移動しているなら、普通の方法じゃ逃げられない。ここから逃げ出しても、すぐにニールに追いつかれて、またあいつの監視下に置かれるかもしれない。もうシャワーも浴びられないままフローリングに転がっているのは嫌だった。
 ノイマンが微笑む。
「暇ならネットの放送でもみていればいいわ。今日の食事会、中継されるから」
 ああ、前にも聞いた気がする。
 なんとなく気持ち悪くて、あまりみたいとは思わなかったが、聖夜協会について知れるチャンスを逃すべきではないだろう。
「アドレスは?」
「PCを立ち上げればわかるようにしてる」
「勝手に触っていいんですか?」
 思わず尋ねた。あまりに無防備だ。
「貴女が知るべきではない情報は、わからないようになっているから大丈夫」
 つい1時間前まで締め切りがどうのと騒いでいたのに、用意周到だ。
「おとなしく待ってますよ。安全に逃げられる方法がみつかるまでは」
「ええ、そうして頂戴。また貴女のチャーハンを食べたいしね」
 それじゃあ行くわと言い残して、ノイマンは部屋を出た。
 外側から鍵が閉まる。妙に重たい音が聞こえた。でももちろん、内側からなら簡単にその鍵を開けることができる。
 私は扉に背を向けて、リビングの片隅にあるノートPCの前に座った。


■久瀬太一/8月2日/18時45分

 八千代が追ってくる様子はなかった。
 オレは大きな池のある公園のベンチに腰を下ろす。殴られた頭はまたくらくらとしていて、これ以上走る気になれなかった。
 時計をみると、もう18時45分だ。
 ――結局、食事会には参加できなかったな。
 あの招待状に書かれていた時刻を過ぎている。
 まあ、いい。あちらはソルに任せていいだろう。彼らに会えなかったことだけが残念だ。
 ぼんやり水面を眺めていると、スマートフォンが震えた。
 ――ソルからのメールか?
 期待したが、違う。
 震えたのはオレのスマートフォンの方だった。
 ポケットから取り出して、モニタを確認する。電話だ。相手の番号は、すでに登録していた。八千代だった。
 しばらく迷ったが、結局、応答のボタンを押す。
「なんだ?」
 自分でも不機嫌だとわかる口調でそう尋ねると、電話の向こうで、彼は笑った。
「よかったよ。もう鍵は口から出したみたいだね」
「すぐにでもまた放り込むさ」
「必要ない。もう待ち合わせの時間を過ぎた」
「じゃあ、なんの用だ?」
 そう尋ねると、ふいに、通話が切れた。
「手を組もう」
 八千代の声は直接聞こえてきた。
 彼はゆっくりと、こちらに歩いてくる。
「驚かせるつもりはなかったんだけどねぇ。ちょっと、電話では話しづらい内容だったんだよ」
 八千代は、オレから3メートルほど離れたところで足を止める。
「心配しなくていい。これ以上は近づかない。今はもう、オレはその鍵を狙っちゃいない」
 オレは軽く息を吸って、吐き出す。
 心を落ち着ける必要があった。
 ゆっくりと、オレは尋ねる。
「手を組むってのは、どういうことだ?」
「そのまんまだよ」
「言葉は信用できないんじゃなかったのか?」
「どうかな。言葉を信じられるのが、人類の最大の強みだ」
 八千代は肩をすくめてみせる。
「あの時点では、君よりも食事会の方が優先度が高かった。でもオレは、時間までにあの星を取り返せなかったからね。あっちはもう諦めた」
「そんなに簡単に諦められるものなのか?」
「実のところ、食事会にそれほどの興味もなかったんだ。万に一つの発見があるかもしれないから、一応参加しておこうって程度だ。別に、君に文句があるわけじゃない」
「発見?」
 八千代は頷く。
「オレも、聖夜協会を調べている」
「調べるって、なにを?」
「いろいろ。ちょっと興味があってね。協会の中に潜入してみたけれど、あいつらはガードが堅い。少し手こずっている」
「それで、食事会に参加しようとしたのか?」
「ああ。一度、メリーの顔をみておきたかった」
「メリー?」
「メリーが何者なのか、オレは知らない。協会内の最高権力者、なんだろうと思うよ。それさえ確証が持てない。でも食事会にはメリーも参加する。――そろそろ、隣に座っても?」
「ダメだ。あんたが聖夜協会を調べている理由を知りたい」
「それは秘密。すべてを話せるわけじゃない」
「なら、ここまでだ。オレはあんたを信用してない」
 八千代は深く、長く、息を吐き出す。
 それから言った。
「プレゼントが欲しい。これで伝わるかい?」
 ――なるほど。
 と、オレは内心でつぶやく。
 たしかにあんな超常現象が手に入るなら、オレだって欲しい。聖夜協会とプレゼントが密接に関わっているのなら、プレゼントを求めてあの集団に加わる人間がいても不思議ではない。
「どうしたらプレゼントが手に入るんだ?」
「まだはっきりとはわからない。調査中だよ」
「あんたの親父に訊けば、協会のことがわかるんじゃないのか?」
「そうもいかない。親父がいたころと、今の協会は別物だ。それに親父とは、あんまり話ができなくてね」
「どうして?」
「ずいぶん痴呆症が悪化してね。今は老人ホームにいる。なにか尋ねても、まともな答えは返ってこない」
 そろそろ隣に座っても? と八千代は言った。
 オレは頷く。少なくともこいつからは、まだ訊き出せることがありそうだ。
 八千代はオレの隣に腰を下ろし、ポケットからなにか取り出す。
「キャンディ、いるかい?」
 と彼は言った。
 オレは首を振る。
「あいにく、そんな気分じゃない」
「そう」
 八千代はキャンディの包装を開き、自身の口に放り込む。
「オレも君も、聖夜協会を追っている」
「ああ」
「でも奴らは謎に包まれていて、なかなかうまく近づけない」
「そうみたいだな」
「そこで本題だ。久瀬くん。オレと、手を組もう」
 彼を頭からつま先まで信用できたなら、願ってもない申し出だ。
 でも、納得できなかった。
「オレに、あんたの力になれるとは思えないな」
「そうでもない。オレはやっぱり、君が英雄じゃないかと思う」
「英雄?」
「協会には、英雄と呼ばれる少年がいる」
「オレはそんな恥ずかしい呼ばれ方をした記憶はないな」
「その少年は、12年前のパーティを最後に消えた。その時、9歳だったらしい」
 確かに、オレと同い年だ。
「でもオレがあのパーティに出ていたのは13年前までだ」
「間違いない? なにも忘れてない?」
 記憶力は、いい方ではない。どちらかといえば悪い。古い友人と昔話をしていても、記憶が噛み合わないことがよくある。
 でも、これだけは間違いない。
「13年前に、母親が死んだ。特別な年だよ。間違えるわけない」
「へぇ」
 八千代は、わずかに眉をひそめる。
「君はちょっと、素直すぎるな」
「ん?」
「君よりはオレの方が、ずっと聖夜協会に詳しい。嘘をついてでも、とりあえず手を組んでおいた方がいい」
「ま、そうかもな」
 でも嘘は苦手だ。
 昨日、無理をして八千代に嘘をついたけれど、それもすぐにばれた。苦手なことには、できるだけ手を出さない方がいい。
「なんにせよオレは、君に可能性を感じているんだよ」
「可能性?」
「君はただの学生だ。見たところ、特別取り柄もなさそうだ。思い切りが良く、行動力がある。多少は自分で思考する習慣も持っている。すべて大事なことだが、それだけじゃ手に負えない問題は無数にある」
 馬鹿にされているように感じたが、真実なので頷いておく。
「なのに君は、ドイルという名前を知っていた。アカテもだ。どうしたのかは知らないけれど、白い星を手に入れた」
 それは、すべてソルの力だ。
 八千代が可能性を感じたのは、オレではなく、ソルだろう。
 ――でも、だとすれば。
 確かにこの男と手を組むことには、意義があるような気がした。
 八千代とソルが手を組めば、みさきの救出だってできるのではないか? オレがあいだに入れば、ソルと八千代を繋げられる。
 ――とはいえ。
 もちろんオレは、八千代を信頼したわけじゃない。
 簡単に、「わかった。手を組もう」とは答えられない。
「少し、考えさせてくれ」
 とオレは言った。
 みさきが血を流す8月24日まで、まだしばらくある。焦り過ぎてはいけないと、ソルにも言われている。
 八千代は頷く。
「オーケイ。その気になったら、電話をくれ」
 八千代はベンチから立ち上がる。
「強めに殴っちゃったからね。今日はもう休んだ方がいい。明日にでもまた連絡するよ」
 と、そう言って、八千代はこちらに背を向けて、手を振った。


■佐倉みさき/8月2日/18時57分

 ノートPCを色々いじってみたが、ノイマンの言うとおり、手がかりらしいものはなにもみつからなかった。何度か、警察に助けを求めようか迷った。でも結局止めておく。
 誘拐犯を信用するなんて、正気じゃないとわかっていたけれど、ノイマンはやはり最初の誘拐犯やニールとは違うように感じていた。
 そうこうしているあいだに、19時が迫ってきた。
 私はそのとき、あのボーカロイド曲――「少年ヒーロー」を捜していた。でも、タイトルに間違いはないはずだけど、どれだけ検索してもヒットしない。これもノイマンがノートPCになにか細工をしたせいなのだろうか。
 残念だ、と感じた。あの動画をみえたなら、ずいぶん励まされるような気がしていたのだけど。
  仕方なく私は、デスクトップにあった「食事会生放送」と名前のついているアイコンをクリックする。結果が悪いとわかり切っているテストの答案用紙を確認するような心境だ。みたくはないけれどみないわけにもいかない。
 画面にはクリスマスツリーの写真が映っていた。聖夜のつどい。そんなタイトルの番組らしい。
 その写真の上を、右から左に、コメントが流れていく。


★★★生放送「聖夜の集い」開始。http://live.nicovideo.jp/watch/lv187414203

【8/2 19:00-19:15】メリーニールの会話

トナカイ > ニールさん、いらっしゃい。 (08/02-19:00:35)
トナカイ > メリーさん、いらっしゃい。 (08/02-19:00:53)
★ ニール > おい、メリー。ノイマンが消えた。
★ ニール > とりあえず悪魔は確保したが……穏健派と強硬派、どっちに渡せばいい?

★ メリー > どちらにも渡してはいけません。
★ ニール > どうして?
★ メリー > リュミエールから連絡がありました。
★ メリー > 悪魔が相手であれば、プレゼントを使う、と。

★ ニール > リュミエール……。
★ ニール > センセイと消えた、聖夜協会員のひとりか。
★ ニール > どんなプレゼントなんだ?

★ メリー > それは貴方にも話せません。
★ メリー > ですが、「12年前のイコン」捜しに有益なプレゼントです。
★ メリー > 詳しい指示は、ノイマンに出しておきます。
★ メリー > 彼女と共に、悪魔の相手をしてください。

★ ニール > ノイマンかよ……。
★ ニール > オレ、あいつ苦手なんだよな。

★ メリー > 彼女にはしばらく、「世界」には入らないように言っておきますよ。
★ メリー > 貴方の「足跡」で、せっかくのプレゼントが台無しになっても困りますから。

★ ニール > プレゼント? どのプレゼントだ?
★ メリー > どれでもありませんよ。
★ メリー > ノイマンに作って貰うようにお願いした、私の個人的なプレゼントです。

トナカイ > メリーさん、さようなら~。 (08/02-19:14:02)
トナカイ > ニールさん、さようなら~。 (08/02-19:15:45)

8/2 19:00-19:15


■佐倉みさき/8月2日/19時05分

 生放送がはじまったようだった。ふいに映像が切り替わる。カメラが低いアングルで、テーブルの上を映している。
「それではメリー、始めましょう」
 と男性の声がきこえた。
 続いて女性の声。
「ノイマンがまだのようですが?」
 ノイマンがいない? 遅刻、だろうか?
 彼女は時間に正確な印象があるけれど、思えばそれほどよく知らない。
 ――でも。
 それよりも私は、動画の上を流れていくコメントが気になった。
 なんだかそのコメントは、あの「少年ヒーロー」のときと同じような印象を受けた。
 よくわからない、けれど。
 ――あの時の、彼らだろうか?
 私は彼らに向けたコメントをつけようとしたけれど、やはり躊躇う。
 ――これは、聖夜協会の生放送だ。
 コメントは相手に筒抜けではないのか? ここに(佐倉)と書くのは抵抗があった。
 それから思い出す。彼らには、コメントのつけ方を教わった。
 もしかしたらあれで、彼らになら伝わるかもしれない。
 ――文字を赤く、小さく下に、コメントの前にはマークをつける。

 ★こんばんは。あの時は、本当にありがとうございました!

 と私は、コメントを打ち込んだ。


■久瀬太一/8月2日/19時35分

 オレは電車に揺られながら、ぼんやりと思考していた。
 ――八千代と、手を組むべきか?
 彼を信用するべきではないだろうし、仲間だと思えるはずもない。
 それでも八千代が持っているであろう情報は欲しかった。少なくともあいつは、すでに聖夜協会の内部に入り込んでいる。
 八千代がもしオレを裏切るとして、それはどんな場面だろう。残念ながらオレはただの大学生だ。あいつからみた利用価値がよくわからない。
 決定的な判断材料がないまま、うだうだと悩んでいて、ふと思い出す。
 ――そういや、ドラゴンなんてのもあるんだったな。
 あのわけのわからない未来の風景。
 あんなものまで現実になるというのなら、うだうだ考えても無駄じゃないか。
 オレはため息をつく。
 と、その時。

 ポケットの中のスマートフォンが震えた。


★久瀬へ:聖夜協会も一枚岩ではなく、「穏健派」と「強硬派」とそれ以外に別れています。ノイマンは穏健派で
 ニールは強硬派にあたるようですが、ニールは少し特殊でただメリーを信仰していたいのではないかと思われます
 →【久瀬さんからの返信】わかった、ありがとう!オレもその辺りが気になってたんだ、助かる。
★★★食事会にて偽ドイル(ソル)が 16章25節について聞かれる。
 「その地下室で、彼はいくつもの夢に触れた。その夢たちが彼の教師だった。」
★久瀬へ:会場には、ノイマンがいます
 →【久瀬さんからの返信】すまない……。
 八千代とごたごたしていたせいで、食事会の集合時間に間に合わなかった。
★久瀬へ:みさきさんは30日朝の時点で聖夜協会のノイマンと一緒にいて元気に炒飯を作っています。
 ノイマンは彼女に友好的で、協会最高権力者メリーの指示に従って動いており食事会にも参加するようです。
 会員は皆メリーの指示に従う様です
 →【久瀬さんからの返信】わかった、ありがとう!今はまず、ノイマンを捜せばいいのかな。オレも炒飯を食いたい。
 そういえば晩飯まだだ。
★久瀬へ:もし途中でメールの返事を書ききれなくなったら,
 その返答の内容をできるだけ詳細に頭の中で想像・検討してください.
 ソルに伝えたいことがあったら,同じようにできるだけ詳細に頭の中で想像・検討してください.
 →【久瀬さんからの返信】なんだかよくわからないが、わかった。そうしてみる。
★久瀬へ:スイマの中には穏健派もいるので、少なくとも今はノイマンと名乗る女性は敵ではない。
 しかし、味方だと思ってる人物がスイマの穏健派の可能性もある。
 厭なことを言いますが、宮野さんやちえりさん、彼女たちからの紹介の人物にも気を付けてください
 →【久瀬さんからの返信】宮野さんは、根は良い人だと思っているが、警戒することに抵抗はないな。
 ちえりのことも、わかった。記憶には留めておく。
★久瀬へ:みさきさんに聞きたいこと・伝えたいことがないかメールしてみてもらえないかな?今なら伝えられるよって!
 →【久瀬さんからの返信】みさきにこう伝えて欲しい。「あのキーホルダーは、嘘じゃない」

■佐倉みさき/8月2日/19時45分

ふいに、息が詰まる。
 ――☀コレは伝言です、
 と、コメントが流れた。
 ――「あのキーホルダーは、嘘じゃない」
 それを読んで、2秒か、3秒、遅れて、「あ」と言葉が漏れた。
 強がってみても不安だったし、ノイマンが悪い人ではなかったとしてもここから解放されたかった。
 一方で私は、彼に無理をしないでと言いたかった。彼には安全で平穏に生きて欲しかった。
 今すぐ助けに来て。絶対に助けにこないて。
 矛盾する感情で、ずきんと頭が痛んだ。
 ――返事を書こう。
 と私は思う。

 ★あの人に伝えてください。

 そこまで打ち込んで、手が止まる。
 ――彼に、なんていえばいい?
 私はポケットの中のキーホルダーを握りしめる。
 しばらく悩んで、私はようやく、続きを書いた。

 「大丈夫だよ。ずっと前から知ってる」


★久瀬へ:「彼女から伝言,『大丈夫だよ。ずっと前から知ってる』」
 →【久瀬さんからの返信】ソルのみんな。ありがとう。

■久瀬太一/8月2日/19時50分

 次のメールをひらいて、それを読んで、泣きそうになる。

 そこにはみさきからの伝言が書かれていた。

 彼女は小さな子供の、つまらない嘘を相手にしている場合じゃないんだ。

 ――こいつにはさ、奇跡の魔法がかかってるんだよ。

 そんなわけないじゃん。

 ――こいつを持ってると、絶対に悲しいことは起こらないんだ。そういう風にできてる。

 だって彼女はいま、とても不条理な状況にいて。ありきたりな日常さえ強引に奪われて。たぶん世の中のなにもかもを恨んでも仕方がないくらい、わけのわからないことで苦しめられていて。

 なのに。

 

 「大丈夫だよ。ずっと前から知ってる」

 

 額を押さえて、涙をこらえる。

 なんだか救われた気がした。

 彼女を慰めたかったのに、こちらが慰められたのだと思った。

 だから、オレは。

 今からでもあの嘘を、本当にしなければいけないんだ。


★久瀬へ:ニコニコ生放送 「聖夜のつどい」で検索しろ
 →【久瀬さんからの返信】だめだ。やっぱりみつからない。
★久瀬へ:現状聖夜協会のトップと目されるのはメリーなる人物。
 詳細は不明だが、最高権力者であり、女性であり、スイマではなく、羊の名前であり、祝いの言葉でもある、らしい
 →【久瀬さんからの返信】わかった。メリーという名前は、八千代も口にしていた。覚えておく。
★久瀬へ:どの派閥も、「メリー」という女性には従うようです。そこに救いがあると信じているかららしい
 →【久瀬さんからの返信】ありがとう。メリーってのが、やつらの教祖みたいなものなのか。
★久瀬へ:『強硬派』はより熱心にみさきさんを狙っています。気を付けて。
 →【久瀬さんからの返信】わかった。覚えておく。
★久瀬へ:聖夜協会全体が佐倉みさきを悪魔としており、一度助け出してもそれで事態は解決しない。
 逃げ続けるのは困難だ。一枚岩でないため警察では全てを捕まえられない。
 君が組織そのものを、あるいは頭から何とかしなければいけない
 →【久瀬さんからの返信】ずいぶんハードだな……。まあ、弱音を吐いてもいられないか。
 敵がみんなメリーって奴に従うなら、そいつをなんとかすればいいのかな?
★久瀬へ:バスの運行表なるものを手に入れた。7月は24、25、26日、8月は1、2、8、15、24日と書かれている。
 君の夢にバスが現れる日、また新たなBAD FLAGが立つ日だとも思われる。注意してくれ
 →【久瀬さんからの返信】ありがとう、助かる!よくそんなものみつけたな!……BAD FLAGってなんだ。
 いや、説明されなくてもなんとなくわかるが、胃が痛いな。
★久瀬へ:不慣れな場所で”なにかお手伝いしましょうか?"と声をかけられたら、
 相手は聖夜協会の関連人物の可能性があります。注意するも探りを入れるもよいかと思います
 →【久瀬さんからの返信】わかった。……なんとなく、八千代の言動を思い出すな。
 あいつは「旅先案内人」と名乗っていた。
★久瀬へ:昔にみさきさんと何か約束を交わさなかったか?
 →【久瀬さんからの返信】約束っていうか、オレが約束だと思っていることならある。
 キーホルダーを渡して、「これは魔法のお守りだ」って言ったんだよ。
★久瀬へ:佐倉みさき、ちえり姉妹の誕生日をご存知ではないですか?
 もし知ってたなら、二人をお祝いしてあげたことはありますか
 →【久瀬さんからの返信】よく知らないし、祝ったことはない。
 でも彼女たちの誕生日は、クリスマスよりも後だときいたように思う。
 ……同じ歳だと思ってたけど、ほとんどオレの方が1歳年上なんだな。
★久瀬へ:佐倉みさきは廃ホテルの監禁部屋で謎のノートPCを見つけていた。
 以前アドレスを送った動画はそのノートPCで延々流されていたものだ。
 何者かの意思を感じる、回収できないだろうか
 →【久瀬さんからの返信】あそこに残されていたものは、警察が回収しているはずだ。
 考えてみるが、なかなか難しいように思う。
★久瀬へ:クリスマスパーティーで、みさきのピアノのほかにどんなプログラムがありましたか?
 →【久瀬さんからの返信】手品とか、ハンドベルの演奏とか……。
 たぶん、参加者の特技の発表会みたいな感じだったと思う。
★久瀬へ:久瀬君が水曜日の噂の取材をすることになったのは
 広告主の指示で以前から決まっていた可能性がある。
 それを踏まえて宮野さんにビラを配っていた方を紹介してもらい話す機会を作ってみてほしい。
 そして大勢の中からなぜ久瀬君を選んだのか。
 →【久瀬さんからの返信】ああ、そういやあのビラ配りの女性は気になるな。きいてみる。
★久瀬へ:バスに乗る前、乗ってる間の月の状態を観察してください
 →【制作者からのメール】
 先ほど送信されたメールは、「100の謎」のトリガーとなる情報が含まれているため、彼には届かない。
 近々、対応する100の謎を公開する。
★久瀬へ:ニコニコ動画ってサイトを知っていますか。先日のアドレスの動画はニコニコ動画のもの。
 サイト自体は存在しているか。念の為、見れなかった理由はアカウント非所持とかではないか
 →【久瀬さんからの返信】そのサイトは知っているし、あまりみないが一応アカウントも持っている。
 でも「動画が存在しない」といわれた。
★久瀬へ:あなたが発明教室に通っていたのは小学校何年生のときか.
 廃ホテルのそばで母親を待っていた理由は何か(どこかへ通っていたとか)
 →【久瀬さんからの返信】小学校に入ってすぐだよ。発明教室のあと、あの公園で母さんを待っていた。
 母さんは通院していた。
★久瀬へ:先日教えた動画はボーカロイド楽曲で歌詞は画像の通り。PVと合わせて、みさきさん視点の
 過去のクリスマスパーティの出来事を歌っているようだ。
 また暗号が隠されていて投稿者がMerryなど意味深なものだ
少年ヒーロー歌詞
 →【久瀬さんからの返信】わかった、ありがとう。
 たしかにみさきを思い出す歌詞だが、ところどころよくわからないな。投降者がMerryってのも気になる。
★久瀬へ:手間かもしれないが、重要なことなので確認したい。今は平成何年の何月何日、何曜日だ?
 →【制作者からのメール】 先ほど送信されたメールは、「100の謎」のトリガーとなる情報が含まれているため、
 彼には届かない。 その謎はすでに公開されている。58番目の謎は、 彼らの世界は「いつ」なのか、だ。
★久瀬へ:久瀬くんが子供の頃に行った発明教室は、渋谷にある日本発明振興協会ではありませんか?
 お父さんに確認することはできますか?
 →【制作者からのメール】 先ほど送信されたメールは、「100の謎」のトリガーとなる情報が含まれているため、
 彼には届かない。 その謎はすでに公開されている。
 22番目の謎は、なぜこの物語は一部の情報が語られないのか、だ。
★久瀬へ:現在ソルは聖夜協会側が「プレゼント」能力を使って入手したと思しき情報を調査しているだけです。
 プレゼントについてはソルにも不明な点が多い。
 なので、今後能力について知る機会があれば(ニールについても含めて)詳しく教えてほしいです。
 →【久瀬さんからの返信】なるほど。リュミエール、それからグーテンベルクか。
 リュミエールは、元聖夜協会員だと言っていた。グーテンベルクはどうなんだろうな。
 やっぱり、できるなら彼女たちから話を訊きたいところだ。
★久瀬へ:我々のメールは100の謎と呼ばれる検閲条項により制作者から妨げられることがある。
 100の謎は君やみさきさんを取り巻く状況の重大な真実を握っているらしい
 →【制作者からのメール】先ほど送信されたメールは、「100の謎」のトリガーとなる情報が含まれているため、
 彼には届かない。近々、対応する100の謎を公開する。
★久瀬へ:ソルの得られる情報は基本的に、久瀬くんとたまにみさきさんの周囲の状況、及び思考を
 インターネットを通してテキストで読めるというもの
 →【制作者からのメール】先ほど送信されたメールは、「100の謎」のトリガーとなる情報が含まれているため、
 彼には届かない。近々、対応する100の謎を公開する。
★久瀬へ:「グーテンベルクの描写」・「(偉人名)の視点」と書かれた、タイトルの偉人名を名乗る人物の
 一人称視点、かつ本人が書いたとは思いにくい内容の原稿用紙を発見している。
 我々が見る久瀬くんの情報と共通点があり、その特殊性から超能力の類と考える
 →【制作者からのメール】先ほど送信されたメールは、「100の謎」のトリガーとなる情報が含まれているため、
 彼には届かない。近々、対応する100の謎を公開する。
★久瀬へ:『ベートーヴェン』はどこで手に入れられるのか宮野さんに聞いてください。
 バックナンバーがあるのか、創刊がいつかもわかれば聞いてください。
 →【制作者からのメール】 先ほど送信されたメールは、「100の謎」のトリガーとなる情報が含まれているため、
 彼には届かない。 その謎はすでに公開されている。
 22番目の謎は、なぜこの物語は一部の情報が語られないのか、だ。
★★★メリーから受け取ったURL開示:http://neumann.2-d.jp/sksaga/
メリーから渡された
★久瀬へ:星形のオーナメントの写真を送ってもらうことはできますか?
 →(久瀬さんからのメールに添付されてる画像が真っ黒でみえません)
★久瀬へ:招待状の『平成二十六年』という文面について違和感はありますか?それって今年ですか?
 →【制作者からのメール】 先ほど送信されたメールは、「100の謎」のトリガーとなる情報が含まれているため、
 彼には届かない。 その謎はすでに公開されている。58番目の謎は、 彼らの世界は「いつ」なのか、だ。
★久瀬へ:東京オリンピックは何年に開催されるのか知っていますか?
 →【制作者からのメール】 先ほど送信されたメールは、「100の謎」のトリガーとなる情報が含まれているため、
 彼には届かない。 その謎はすでに公開されている。58番目の謎は、 彼らの世界は「いつ」なのか、だ。
★久瀬へ:お父さんに、久瀬くん本人が最後に聖夜教会のクリスマスパーティに参加したのがいつか聞いてください
 →【久瀬さんからの返信】わかった。きいておく。
★久瀬へ:久瀬父に、佐倉父、また佐倉家について聞いてみてください!
 →【制作者からのメール】賢明で行動力に溢れる諸君。残念だが、現在は電波が入っていない。
 今回送信されたメールは、近々彼に届くだろう。

■佐倉みさき/8月2日/20時35分

 放送が終わってからもしばらく、そのモニターをぼんやりと眺めていた。
 ――あのメッセージは、本物だったのかな?
 久瀬くんからのメッセージ。
 わからない。けど、なんだか疑えなかった。
 私は深呼吸をする。
 がんばろう、と思う。
 その時だった。
 背後で、コツン、と音がした。
 知っている音だ。背筋が震える。
「よう」
 と声が聞こえる。
 振り返りたくはなかった。でも身体は、反射的に振り返っていた。
 あのサングラスの男――ニールがそこに、立っている。
 彼は首を傾けて、頭を掻きながら、つまらなそうに、
「予定変更だ。お前にやってもらうことができた」

 そう言った。


■久瀬太一/8月2日/24時

 ソルから知らされていた通りだ。
 夜、オレはまた夢の中であのバスに乗った。
 ――確かバスが走るのは、残りは8日、15日、24日。
 意外に少ない。だがこれでずっと、予定が立てやすくなった。
 オレはきぐるみの隣に座る。きぐるみは言った。
「機嫌がよさそうじゃないか」
「どうかな」
 ま、悪くはない。
 みさきのメッセージを読めたし、バスの運行予定もわかった。
「たいした余裕だな。このあと、ドラゴンに食われるってのに」
 ……ああ。
 そういえば、そんな未来もあったな。
 突拍子がなさすぎて、リアルな恐怖に結びつかない。
「なんなんだよ、ドラゴンって」
「さあな」
 きぐるみは、窓の外に顔を向ける。
「たぶん今ごろ、ソルのみんなががんばって攻略中だよ。でもお前が動かないと、みんなも困っちまうんだ」
 同じようなことを、昨日の夜も言われた。
 バスが走り出す。

       ※

 とりあえず、決める。
 昨夜みた、あの滅茶苦茶な出来事。ドラゴンに頭からかじられるなんて、まったく現実味のない、冗談みたいな死。
 このままであれば、あれは現実に起こるのだと信じることにした。すべてフィクションならそれでいい。今は、最悪に備える方が建設的だ。
 いったい、未来のオレになにが起こっているのか?
 少しでも状況をつかもうと、意識を集中する。
 また車内アナウンスが、わけのわからない日づけを告げる。
 ――次は青と紫の節、9番目の陰の日です。
 昨日と同じ、だと思う。はっきりとは覚えていないが。
 バスがトンネルを抜け、また目の前に、あのドラゴンが現れる。
 ――知っている。
 もう、驚かない。たとえ自分自身が食い殺されても。
 心を落ち着けていたからだろうか? 昨日は気づけなかったことが、ふたつわかった。
 まずひとつに、オレはスマートフォンを手にしてた。画面を必死に覗き込んでいるようだ。
 ――ソルからのメール?
 どうだろう。バスの中からではわからない。
 窓の向こうのオレは、ドラゴンに背を向けて、一目散に逃げ出す。
 ――ま、そりゃそうするしかない。
 前方にはあの髪の青い女性がいる。たぶん幽霊、なのだろう。彼女はやはり、ドアを突き抜けて消えてしまおうとして。
 その前に、オレが叫んだ。
「なあ、あんた。ちょっと待ってくれ」
 少しでも情報を収集しようと決めたようだ。
 青い髪の女性が、ゆっくりとこちらを向く。
 続けてオレは叫ぶ。
「なんでもいい。知っていることを教えてくれ」
 小さな声で、青い髪の女性が答える。
「マコト」
 と彼女は言った。
 ――え?
 マコト?
 人名、だろうか?
 彼女は続ける。
「マコトに伝えて。私は、幸せだった、と」
 ――いや。
 誰だよマコトって。

――To be continued


【補足:聖夜のつどい】 ◇:穏健派、◆:強硬派

・メリー:「ノイマンがまだのようですが(いらつく)」小食。聖夜協会の会員が皆同じ教えを共に歩むことを願っている。
◇ファーブル(穏健派):「(太宰に対して)貴方が導く立場であることをお忘れなく」「まぁそれ(年を取った分)だけ、教えに近づいて行っているということだと思っているよ。」「そう、16章25節・・・・英雄の、あの幼き日々。なんと、心にしみる、一節だろう。」
――その地下室で、彼はいくつもの夢に触れた。※16章25節
――巨大な塔は常に彼を見下ろしていた。※17章27節
――彼はいつも母親を待っていた。そのベンチが、彼に待つことを教えた。※13章17節
◇レンブラント(穏健派):「スプーンはないのかい?」オレンジが好き。「(赤は)実に情熱的な、色だと思う」レンブラントの絵画「夜警」が大好き。
◇ノイマン(穏健派):遅刻、欠席。
◆太宰(強硬派):「スプーンは本来、親が子供に食べさせるための手段だ。実にみっともない。」「赤は、実に野蛮な色だ」
◆ハイドン:強硬派。
・(派閥は不明)カーライル:聖夜通信7月号の善行発表会「子供の教育に貢献しました」
・(派閥は不明)オットー:聖夜通信7月号の善行発表会「夏の夜にそぐわない騒音を排除しました」
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・聖夜の集いは月に一度、開催される。もともとはセンセイが始めた。むやみに人数を増やさないのが当時からの慣例。
・仲間を疑う事は『教典の教え』に反している。顔を広く見せないしきたり。会員それぞれのプライバシーは出来るだけ守られるようになっている。最初に参加する際には目隠しをさせられる。
・今回の善行発表会は会に参加している歴の深い順に太宰、レンブラント、ドイル。
・ニール(強硬派)は教典に目も通していないらしい。
・偽ドイルがメリー「様」と呼ぶまでメリー、と呼び捨てにしていた。
・強硬派が「イコンの候補」を紛失。イコンは重要ですが、一番重要なのはそこに込められた気持ちです。
・ファーブル(穏健派)は「英雄の証」について調査中。
・【座席一覧】:色席順
・【みさきコメント】「え?私の姉ではないと思います。声が違います。メリーさん」「うーん、微妙に、メリーさんの声を聞いたことが有るような……」「彼に最後にあったのは小学二年生の時です」「ありました。小3のクリスマスパーティ」「ノイマンは、なんだか真面目なOL? みたいな。髪は黒くて肩より短いくらい……(長い黒髪が綺麗な女性。 ※7/28 10:30)」


【メリーの視点】 8/1 / 書籍P:284 ← 3D小説「bell」 → 8月3日(日)
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最終更新日 : 2015-07-30

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