
※『ドイルの視点2』:秋葉原にて遭遇したアカテより受け取ったメモから判明した大阪の一室にて発見。
ずいぶん使っていなかった部屋だからだろ
う、空気がほこりっぽい。それに混じって、
親父が好きなタバコの匂いがした。
エアコンはあまりよく効かない。窓を開け
ようとすると、取っ手が壊れかけている。あ
ちこち痛んでいるようだ。
ここは以前、親父が事務所として使ってい
た部屋だ。窓辺の席に座ると、仕事をしてい
る親父の姿を思い出すような気がして、不思
議な気分になる。仕事中の親父なんて、ほと
んどみたこともないのに。
清らかとはいえない空気に顔をしかめなが
ら、オレはぼんやりとデスクを見渡した。見
覚えのある小物がいくつかある。怪獣の形を
したライター。腕のレバーを下げても、もう
火はつかない。本を模した小物入れ。中には
ミニカーが入っている。昔、触ったことのあ
る組み木細工の小箱。開け方はすんなりと思
い出せる。
--そういえば。
オレはデスクの上に手を伸ばす。--やっ
ぱりだ。以前と同じ場所に小さな鍵が隠され
ている。親父は変わらないな、と感じて、つ
い笑った。
親父を言葉で表現するのは、そう難しいこ
とではない。将棋が好きで、いたずら心にあ
ふれていて、子供っぽい。それは今も変わら
ない。
オレがこの部屋を訪れたのは、親父の子
供っぽい頼み事が理由だ。それはオレにとっ
ても、興味深い内容だった。
--もしも、親父が残したものを捜して、
誰かがこの部屋に現れるなら。
そいつに会ってみたい。いくつか、聞きた
いことがあった。
オレはコンビニで買ってきたカロリーメイ
トを食い、ブラックの缶コーヒーを飲んだ。
食事とも言えないような食事を終えたころ、
ポケットの中のスマートフォンが鳴り始めた。
電話番号をみて、顔をしかめる。あまり好
ましい着信ではない。
--ま、いいだろ。
気が乗らない電話には、出ない方が良い。
応答のボタンには触れないことに決めて、
視界の隅に入ったスタンドにスマートフォン
を立てかけ、オレは着信画面をくるりと窓の
むこうに向けた。
※
親父からの頼まれごとは二十分ほどで終
了した。
さて、どうしたものだろう?
ここに誰かが訪れるなら、それを待っても
よかった。ベッドもない部屋だが、数日生活
するくらいなら問題はない。
とはいえ、いつ、どのタイミングでその「誰
か」がやってくるのかはわからない。あまり
効率的な方法だとはいえそうにない。
オレはポケットの中のスマートフォン--
さきほどデスク脇に置いたものとは違うス
マートフォン--を取り出し、ブラックアウ
トしたままのモニタを眺めた。
--とすぐに着信があった。
今度は求めていたナンバーだ。
オレは応答のボタンを押し、それから、引
き出しの中のメモ帳を手元に引き寄せた。
(真っ白なページ)
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表:「雪 shiroデザイン事務所 Email:shiro.designworks@gmail.com」、裏:「a premise」
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最終更新日 : 2014-12-21