珍聞記事誌 【第三號 明治二十七年四月十一日】
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土之絵多津夢物語 【第三回 天赦園五郎蔵】
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五人組は其れからも勢を増していき、
天道様の世間を照すが如くに彼等の志は広がつていつた。
終にはソレ世矗しぢやと、五人の気魄天を衝く程壮大に膨上る迄になつた。
左程の勢ひにては最早やむ事無しと、一帯の長連中にも同調する者が現れ始めた。
又快刀の麻を断つが如き五人を慕ひて
近隣遠方からも讃同する者後を断ずといつた有様であつた。
サアサア困り果たのが殿様ぢや。
権を笠にきて懲しめ様にも近隣の長達迄巻込まれておつては軽軽に手出はできぬ。
さりとて金子を當がふて懐柔する事も敵はぬとあつて、流石の殿様も一寸うんざりして了た様子であつた。
ところが人の定なぞ異なる物奇なる物にて五人組に奇態が生じた。
仲違いを始めたのぢやった。
五人の中一人が或る頃から道を別つて退け者にされる様になつた。
暴れ回る事に倦んだとも殿様を巡りてとも云ふが事訳は爺にも分らぬ。
併し退け者之を意に介さず逸散に己が道を駈ておつた。
何処からか二人の余所者が遣つて来たのは丁度其後の頃ぢやつたと思ふ。
あらう事か四人の中三人が余所者二人と党を組んだと云ふ。
是は噂であつて分明ならぬ。
兎に角退け者と新しき党は嘗ての同士とは覚へぬ程別たれて仕舞た。
終に退け者は嘗ての仲間に殺され、
折悪く訪ね来りた残りの一人も巻添えを喰うたそうな。
此様な無體に憐憫の涙を落さぬ者一人も居らずといふ事ぢやつた。
其頃から件の流行唄が斯くの如く様変つたと伝る。
かごめかごめ 籠の中の鳥は
何時何時出遣る 夜明の晩に
つるとかめがすべつた
後ろの正面だあれ
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編集後記
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古今東西の珍聞奇談を広く伝んと本誌を興し、
特段天赦園氏の滑稽話は読者諸兄の好評を博すところなれ共、
天赦園氏は嘗て司法の職の人にて今度改めて勅撰の議員と成られしを以て、
未完乍ら此号にて休止せしを了とせられんことを願う。
尚、今般政府の布達に拠て本誌は此号を以て廃刊せし事、併せて了とせられん。
同布達は天赦園氏滑稽話とは無縁の事、
話中の流行唄は江戸の昔から幾通りもある事、
話中の解釈は天赦園氏の筆に拠し事を付記するもの也。
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以下については意訳(訂正ほかフォローをお願いします)
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5人組はそれからも勢いを増して行く。
お天道様が世間を照らすように、彼らの志は広がっていった。
遂にそれは世直しだと、5人の気迫は天を衝くほど壮大に膨れ上がるまでとなった。
これ程の勢いは、もはやただごとではない。と、地域の実力者達の中にも彼らに同調するものが現れ始めた。
また、快刀乱麻を断つ(もののみごとに処理することのたとえ)がごとき5人を慕って、
近隣遠方からも賛同する者が後を断たない、といった有様だった。
そこで、困り果てたのは殿様だ。
権力を使って弾圧しようにも、近隣の実力者まで巻き込まれていては、そう簡単に弾圧することはできない。
かといって、金銭で手なずけることも出来ないとあって、さすがに殿様も少々うんざりしてしていた様子だった。
ところが人の運命とは不思議なもので、5人の間に変化が生じた。
仲違いを始めたのだ。
ある頃より、5人の中の1人が方向性の違いからのけ者にされるようになった。
暴れ回る事に気持ちがくじけたとも、殿様の側に戻ったともいうが、真実は私にもわからない。
しかし、のけ者はこれを意に介さず、わき目もふらず自分の道を進んでいた。
何処からか2人のよそ者がやって来たのは、丁度その頃だったと思う。
あろうことか、4人の中の3人がそのよそ者2人と新しく党派を組んだという。
これは噂であって、はっきりとした事はわからない。
とにかく、のけ者と新党の者たちは、かつて同志だったと思えない程に分かれてしまった。
遂にのけ者はかつての仲間によって殺されてしまい、
折り悪く訪ねてきた残りの1人も巻き添えをくってしまったそうだ。
このような無法に哀れみの涙を流さないものは1人とて、いなかったという。
その頃から例の流行歌がこのように変わって行ったということだ。
♪かごめかごめ 籠の中の鳥は
何時何時出遣る 夜明の晩に
つるとかめがすべつた
後ろの正面だあれ♪
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編集後記
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いつの時代、どこの土地にも存在する珍しい変わった内容の逸話を広く伝えようと本誌を興しました。
特に天赦園氏の滑稽な話は読者の皆様から好評を頂いておりましたが、
この度、天赦園氏は元来の司法職から、書物を編纂する議員となられました。
それにより、未完成ながら滑稽話はこの号を以って休止とさせて頂きます。
悪しからず御了承下さい。
なお、政府のお達しによって本誌は今号を以って廃刊致しますことを併せて御了承下さい。
政府のお達しについては天赦園氏の滑稽話とは無縁であり、
逸話に登場する流行唄は江戸時代から幾通りもの歌詞が存在します。
また、話中での解釈についても天赦園氏による一説である事を追記しておきます。
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該当記事への関連付けとして「土之絵多津夢物語 第三回のコピー」へTB
http://mashiro0.blog40.fc2.com/blog-entry-99.html
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土之絵多津夢物語 【第三回 天赦園五郎蔵】
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五人組は其れからも勢を増していき、
天道様の世間を照すが如くに彼等の志は広がつていつた。
終にはソレ世矗しぢやと、五人の気魄天を衝く程壮大に膨上る迄になつた。
左程の勢ひにては最早やむ事無しと、一帯の長連中にも同調する者が現れ始めた。
又快刀の麻を断つが如き五人を慕ひて
近隣遠方からも讃同する者後を断ずといつた有様であつた。
サアサア困り果たのが殿様ぢや。
権を笠にきて懲しめ様にも近隣の長達迄巻込まれておつては軽軽に手出はできぬ。
さりとて金子を當がふて懐柔する事も敵はぬとあつて、流石の殿様も一寸うんざりして了た様子であつた。
ところが人の定なぞ異なる物奇なる物にて五人組に奇態が生じた。
仲違いを始めたのぢやった。
五人の中一人が或る頃から道を別つて退け者にされる様になつた。
暴れ回る事に倦んだとも殿様を巡りてとも云ふが事訳は爺にも分らぬ。
併し退け者之を意に介さず逸散に己が道を駈ておつた。
何処からか二人の余所者が遣つて来たのは丁度其後の頃ぢやつたと思ふ。
あらう事か四人の中三人が余所者二人と党を組んだと云ふ。
是は噂であつて分明ならぬ。
兎に角退け者と新しき党は嘗ての同士とは覚へぬ程別たれて仕舞た。
終に退け者は嘗ての仲間に殺され、
折悪く訪ね来りた残りの一人も巻添えを喰うたそうな。
此様な無體に憐憫の涙を落さぬ者一人も居らずといふ事ぢやつた。
其頃から件の流行唄が斯くの如く様変つたと伝る。
かごめかごめ 籠の中の鳥は
何時何時出遣る 夜明の晩に
つるとかめがすべつた
後ろの正面だあれ
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編集後記
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古今東西の珍聞奇談を広く伝んと本誌を興し、
特段天赦園氏の滑稽話は読者諸兄の好評を博すところなれ共、
天赦園氏は嘗て司法の職の人にて今度改めて勅撰の議員と成られしを以て、
未完乍ら此号にて休止せしを了とせられんことを願う。
尚、今般政府の布達に拠て本誌は此号を以て廃刊せし事、併せて了とせられん。
同布達は天赦園氏滑稽話とは無縁の事、
話中の流行唄は江戸の昔から幾通りもある事、
話中の解釈は天赦園氏の筆に拠し事を付記するもの也。
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以下については意訳(訂正ほかフォローをお願いします)
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5人組はそれからも勢いを増して行く。
お天道様が世間を照らすように、彼らの志は広がっていった。
遂にそれは世直しだと、5人の気迫は天を衝くほど壮大に膨れ上がるまでとなった。
これ程の勢いは、もはやただごとではない。と、地域の実力者達の中にも彼らに同調するものが現れ始めた。
また、快刀乱麻を断つ(もののみごとに処理することのたとえ)がごとき5人を慕って、
近隣遠方からも賛同する者が後を断たない、といった有様だった。
そこで、困り果てたのは殿様だ。
権力を使って弾圧しようにも、近隣の実力者まで巻き込まれていては、そう簡単に弾圧することはできない。
かといって、金銭で手なずけることも出来ないとあって、さすがに殿様も少々うんざりしてしていた様子だった。
ところが人の運命とは不思議なもので、5人の間に変化が生じた。
仲違いを始めたのだ。
ある頃より、5人の中の1人が方向性の違いからのけ者にされるようになった。
暴れ回る事に気持ちがくじけたとも、殿様の側に戻ったともいうが、真実は私にもわからない。
しかし、のけ者はこれを意に介さず、わき目もふらず自分の道を進んでいた。
何処からか2人のよそ者がやって来たのは、丁度その頃だったと思う。
あろうことか、4人の中の3人がそのよそ者2人と新しく党派を組んだという。
これは噂であって、はっきりとした事はわからない。
とにかく、のけ者と新党の者たちは、かつて同志だったと思えない程に分かれてしまった。
遂にのけ者はかつての仲間によって殺されてしまい、
折り悪く訪ねてきた残りの1人も巻き添えをくってしまったそうだ。
このような無法に哀れみの涙を流さないものは1人とて、いなかったという。
その頃から例の流行歌がこのように変わって行ったということだ。
♪かごめかごめ 籠の中の鳥は
何時何時出遣る 夜明の晩に
つるとかめがすべつた
後ろの正面だあれ♪
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編集後記
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いつの時代、どこの土地にも存在する珍しい変わった内容の逸話を広く伝えようと本誌を興しました。
特に天赦園氏の滑稽な話は読者の皆様から好評を頂いておりましたが、
この度、天赦園氏は元来の司法職から、書物を編纂する議員となられました。
それにより、未完成ながら滑稽話はこの号を以って休止とさせて頂きます。
悪しからず御了承下さい。
なお、政府のお達しによって本誌は今号を以って廃刊致しますことを併せて御了承下さい。
政府のお達しについては天赦園氏の滑稽話とは無縁であり、
逸話に登場する流行唄は江戸時代から幾通りもの歌詞が存在します。
また、話中での解釈についても天赦園氏による一説である事を追記しておきます。
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最終更新日 : -0001-11-30